大逆転学園!

□お弁当・2
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ごきげんよう、御琴羽寿沙都でございます。

突然ではありますが、私のクラスに神血ミレイさまという方がいらっしゃいます。
クラスメイトというのと、席が近いためよくお話しており、気づけば友達になっておりました。

そんなミレイさまのことでございますが、ある日の昼休みにこんなことがありました。
なかなかミレイさまが屋上に来ないため、私共の教室へ向かいますと、バンジークス先生専用のデスクのところにおられました。
廊下からこっそり、覗いてみます。





「バンジークス先生殿ぉぉぉ、本日の弁当にござりまするぅぅぅ」
「ん」
「……ん、って何ですか!もうちょっといい反応してください!」
「いや……"ん"以外で反応する価値が無い」
「え、ひどい」





ミレイさまは、担任であるバンジークス先生とたいへん仲がよろしゅうございます。
しかしそんなことをお二方の前で言ったら、お怒りになりそうです。

実はある日、ミレイさまが「これから弁当食べる時、屋上行くの遅くなるからよろしくっ!」と仰ったのです。
というのは昼休みはいつも、私、ミレイさま、同じくクラスメイトである成歩堂さまと亜双義さまとでお弁当を食べているのです。
昼休みになれば4人で一緒に屋上へと向かうのですが、ある日を境に3人になってしまったのでした。

そういえば、その"ある日"……お弁当を食べていましたら、バンジークス先生がいらっしゃいまして、ミレイさまの卵焼きを勝手に食べたのでございます。
私共は何らかの危険を感じ、その場から離れた後、ミレイさまと先生が二人きりとなりました。

その後に何があったのかは知り得ないことでしたが、どうやらその答えが今、判明したようでございます。





「ところで、今日の卵焼きはどうですか。コンディション」
「まぁまぁだ」
「やったあああ!!」





もしやミレイさま、バンジークス先生のお弁当をお作りすることになったのでは?

それにしても、"まぁまぁ"で物凄い喜びようです。
おそらく、日頃の積み重ねでしょう。
バンジークス先生がどんな評価か、言葉とは裏腹ながらも感じ取れるようになったのでしょうね。





「……ところで、何だこれは」
「え?どれです?」
「これだ、これ」
「ああ、タコさんウインナーですね!日々上達してるんですよ、足作るの」
「…………」
「あれ、知りませんか?普通のウインナー買ってきて、自分で切り込みを入れて作ってるんですよ!」





バンジークス先生が箸でおつまみになられた、ウインナー。
なんと可愛らしいことでしょう。
しかもわざわざ切り込みを入れて……ミレイさまの愛が伝わってきます。先生は訝しそうにしておりますが。

……ミレイさま、バンジークス先生のことどう思っていらっしゃるのでしょう?





「なぜ私の弁当に……」
「いいじゃないですか、可愛いですよ!」
「私に向けてやることではないだろう」
「いいんですー、私がやりたくてそうしたんですっ!」
「……」





結局バンジークス先生、文句を言いつつも食べております。
味見役なのでしょうか……それとも、ミレイさまにすべて任せて……!?

後でミレイさまに突撃せねばなりませんね。





「……ふぅ……。……これは?」
「デザートですよ。あ、デザートって言ってもフルーツですが。開けてみてください!」
「……、」
「ふふ〜んっ。うさちゃんです!」
「うさ……」





お弁当をすべて食べ終わったと思いきや、バンジークス先生、手のひらほどの小さい入れ物を手にしました。
開けると爪楊枝が刺さった、うさぎの耳のように皮が切り取られたリンゴが入っていたのです。

真っ直ぐ「うさちゃんです!」と笑むミレイさま。
先ほどのウインナーに引き続き、バンジークス先生困っておられました。





「貴様、これも……」
「もちろん、私がやったんですよ〜。アレなんですよね、リンゴの皮剥くの包丁でやってるんですよ。これはいつも危ういですね」
「……危うい?」
「指、切りそうになるんです、いつも。こればかりは不器用かもです。あ、前切ったような切ってないような、」





その言葉を聞いた途端、突然バンジークス先生がミレイさまの手を取って、指を確認されたのです。
正しく紳士そのものでございました……。
私も思わずうっとりとしましたし、何よりミレイさまが固まっておられます。





「わ、せ、せんせ……」
「……」
「だ、大丈夫です……前の話なので、き、きっと治ってますから」





ミレイさまが動揺している間に、あっという間にバンジークス先生が完食されました。
とても礼儀正しく、きちんと蓋を閉めて、2つある弁当箱を並べてありました。





「ところで。貴様は食べたのか?」
「え?……あ、食べてません」
「はぁ……なぜずっと私のところにいた」
「いやぁ、弁当の出来を確かめなきゃいけないですから。やっぱりこう、生の声を聞かないと、先生の望む弁当になりませんから」
「……何でも構わぬからさっさと食べに行け」
「はーい!」





まあ、なんと……!
ミレイさま、まだ昼食をとられていないとは……!
由々しき事態でございます、後で言っておかなければなりません。

自分のお体も大事にされないと……。





「あ、そうだ。バンジークス先生。改善点とかありましたー?」
「特に無い」
「!……ふふっ、やったあ!じゃあ私、これからも頑張りますね!」
「……ふっ」





あ、バンジークス先生が教室を出ようとしております。
深い意味はありませんが、一連の出来事を見られたと思われたくありませんので……。
先生に見られないよう、さっと生徒の間を通り抜けました。

教室に入りますと、空の弁当箱を持ったミレイさまと目が合いました。





「あ、寿沙都〜!ごめんね、遅くなっちゃって」
「まったく、ミレイさまは……」
「悪いけどさ、かなり時間経っちゃったから、お弁当教室で食べていいかな?」
「はい……食べないよりはましでございます。その代わり、質問に答えてくださいまし」
「質問ー?」





この時ほど都合の良い時は無かったかもしれません。
お互いの席に座って、ミレイさまは自分の弁当箱を机の上に出し、私はミレイさまのほうを向きました。





「直球に訊かせていただきます。ミレイさま、バンジークス先生に弁当をお作りになられているのですか?」
「うおっ!?ば、バレてた!?も、もしかして見てたの?」
「隠す必要はございませんでしょう……一部始終を目撃しておりました」
「そ、そう……まあいっか……」





初めはお弁当を食べながら、やる気のない顔をされていたミレイさまですが、質問をすると具が喉に詰まるのではという勢いで、息が一瞬止まっておりました。
というよりも、別段秘密にすることではないと思われますが。





「どういう事態でございますか」
「あはは、えーっと……バンジークス先生に卵焼き取られたことあったじゃん?その時に食べられてから、なんか毎日来るんだよ」
「はぁ、それは奇妙でございますね」
「それで、なんか先生自分の弁当持って来なくなって。気づいたら先生の分も作ってたんだよ〜」
「!……何と言いますか……」





論理的な答えが返ってきませんでしたが、成り行きは判明いたしました。
ミレイさまはふんわりと事実を捉えておりますが、第3者の立場としてはあからさますぎます。





「ミレイさま……バンジークス先生に気に入られているのでは?」
「ええっ!」
「ついには、己の昼食をミレイさまに委ねているのですよ!これはもう伴侶の域に違いありません」
「は、は、伴侶って、わ、わ」





同性から見ても、伴侶と言われて慌てふためくミレイさまは愛おしく感じます。
引きずっておられるのか、箸の進みがたいへん遅いです。
私はふと、嫌な予感と言うべきか、はたまた愉快な予感と言うべきか、そんな予感がよぎり教室の時計に目をやりました。





「あ……もう授業が目前ですよ」
「え」
「早くしないと、先生が来られますよ」
「えっえっ」
「では寿沙都は準備をいたしますので」
「あああー!寿沙都ーー!!」



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