大逆転学園!

□保健室は大忙し!
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「アイリス先生……失礼します……」
「あれー、元気ないねぇ、ミレイちゃん」
「それが……いろいろありまして……」





こんなはずでは無かったのだが、私は少し前にあったことを引きずっていた。
そのことで保健室に来て、アイリス先生に事情を話しているのだが、話の始めが"生徒が告白しているのを目撃しました"なのが今では惨めである。

私自身も驚くほどに深刻な問題として捉えているのだが、話を進めるほどアイリス先生が笑顔になっていく。
いや……他人から見ればオイシイ話に違いあるまい。





「……ってことがあったんですけど、もう何なんでしょう?」
「うーん、それでミレイちゃんはどうしたいのー?」
「どうしたい、と言いますか……私としては、ハッキリしてほしいんです!」
「なるほど〜」
「だって、どういう意図かわからないままモヤモヤするのも気持ち悪いし……それに、興味が無いならそう言ってほしいんですよ!」
「訊けばいいんじゃない?」





言い返せない。

いや、本当にごもっともだ。
わざわざアイリス先生を介さずとも、バンジークス先生に直接問いただせばいいこと。
それを心の奥でわかっていながら、こうしてここにいる私は一体。





「あれでしょ、案外"興味などない"みたいに言われたら傷つくでしょ?」
「は、はぁ……?そんなわけ……だって、そう、アイリス先生!私ね、今バンジークス先生に弁当作ってあげてるんですよ」
「え?そっちのほうが大ニュースじゃない?」
「ごめんなさい、お弁当作りに没頭してました」
「その話聞かせてー!」





アイリス先生の命令により、バンジークス先生にお弁当を作ってあげている経緯を話した。
確かに、"バンジークス先生の気持ちがわからない"とかいうお悩み相談をしてる奴がやる行動ではない。

あー、なんか私ごちゃごちゃしてる。バンジークス先生にかき乱されたみたい。





「先生、褒め言葉で褒めることが無いんですよ!淡々と食べてるというか……」
「すごいねー!だって毎日食べてることが奇跡だよ!」
「ま、まあそうですね」
「自信持っていいと思うよ!誰かの手作りって好き嫌いが出るものだから」
「な、なら……嫌いでは、ない……?」
「嫌いなわけないじゃーん!」
「は、はあ……」





あはは!と笑いながら、私の背中をべしべし叩くアイリス先生。
でもアイリス先生の笑顔を見てると、いいかも、って思えてくる。

つられて私も顔が緩みだすと、保健室の扉が開かれた。





「失礼するよ!おや、そこにいるのは……」
「え!ホームズ先生!」
「あー!ホームズくん、どうしたの?」
「え、アイリス先生、"ホームズくん"って呼んでるんですか」
「そうだよ〜」





アイリス先生の衝撃の事実が出たところで、保健室に入ってきたのは、男子生徒を連れたホームズ先生だった。
男子生徒を見てみると、顔がかなり青ざめていたので、体調不良なのかもしれない。

ホームズ先生とアイリス先生の会話を聞くと、本当に体調不良だったようで、少しベッドで休むことにしたようだ。
ちなみにベッドがある場所は、部屋自体を大きなカーテンで隔てている。
私は何回かお世話になったことがあるが、話し声も遠くに感じられて、よく眠れるのだ。





「やあミレイ。久しぶり、なのかな?」
「そうですね、顔を見かけるだけで……話すのは久しぶりかも」
「ホームズくんとミレイちゃんは仲良いんだよね?」
「え、あ、そうなのかな……?ただ、担任だっただけで……」
「よく話すよ。それより楽しい話でもしていたのかい?」
「えっ、どうして……」
「アイリス先生の笑い声が廊下まで聞こえてたからね」
「えぇ……」
「ごめんごめん〜」





気づけばホームズ先生もソファに座って、話に加わっていた。
しかし、笑い声が廊下に聞こえてしまうというのは、壁的に大丈夫なのだろうか。

するとアイリス先生が、とんでもないことを言い出した。





「そういえばね、ホームズくん。ミレイちゃんのお悩み相談を受けてたの!」
「へえ〜、悩める時期なんだねぇ」
「え、ちょっと待ってください、」
「それがね、ふふ、面白くって……」
「あああああ!!な、なんか言わないでえええ!!」





私の制止の叫び声も聞かず、アイリス先生は多少脚色を加えつつ、"生徒が告白しているのを目撃しました"から始まる話をし出した。
うまく言葉にできないが、ホームズ先生には知られたくないのだ。

バンジークス先生をよく知っているからだろうか、はたまたそれ以外が……。





「何だって?告白?」
「そう、告白なの!」
「ミレイ、どういうことかな?」
「え?ちょっと待ってください、別にアレは告白じゃないですよ!?」
「え?告白じゃないのー?」
「だってだって、どう考えてもからかいじゃないですか。ってか、その後めっちゃ笑われたんですよ!!」





告白だとなぜか改変し、きゃっきゃと騒ぐアイリス先生、そしてなぜか炎が燃え盛っている、ように見えるホームズ先生。
あれ、なんでホームズ先生が怒りに満ちているのだろうか?
怒りというか、笑ってるけど。

私がいろいろ叫ぶが、誤解が進む進む。
――そしてそこに、弓矢の如くぴしゃりと響き渡る、保健室の扉が開かれる音と――。





「……いろいろと筒抜けだぞ」
「ひえええええ」
「あ、ちょうどいいところに〜!」
「よくないです!!」
「バンジークス、いろいろと訊きたいことがあるんだけど」
「?」
「戦闘は外でお願いします」





かなり悪いタイミングでの、バンジークス先生の登場。
まさしく戦闘でも始めんばかりのホームズ先生の気迫。

アイリス先生はのほほんとしているものの、二人の気迫に挟まれて息が詰まりそうな私……。





「バンジークス。君はミレイをどうしたいんだい?」
「……どうもこうも。ただ私が受け持っている生徒なだけだが」
「そうとは思えないな。第一、公の場だから飄々としていられるだけだと思うけど、君の行動は把握しているんだ」
「……いまいちわからぬ」
「はぁ。口を割らないつもりだね?君がよければ、場所を変えて……」





ああ、戦闘は外でやれと言ったのに、早速始まってしまった。
ホームズ先生は何言ってるかよくわからないし、バンジークス先生は引かないし。
できることなら二人どっか行って、丸く収めてほしい。





「……ところで、バンジークスは何の用でここに?」
「ああ……ミレイ」
「え?」
「少し雑用をな……来い、ミレイ」
「え、なんで私なんですか?他に生徒いっぱいいるじゃないですか」
「…………」





あ、私じゃないと殺すという目をされた。
これは早急に行かねばならない。

ついに私はバンジークス先生に指名されるようになったのか?
なんて世にも恐ろしい指名。ホストのほうがマシだ。





「ということで、行ってまいります。アイリス先生、今日もありがとうございました!」
「うん!またいつでも来るんだよ〜」
「ホームズ先生、一旦ここは休戦にしておきましょう」
「まぁ、仕方ないね。次は知らないけど」
「物騒なので広いところでお願いしますね」
「……さっさと行くぞ」





アイリス先生とホームズ先生に手を振り、白衣の裾を靡かせるバンジークス先生について行く。

いつもそうだが、今日は一層無口に感じる。
私たちの教室のほうへ向かっているのはわかるが、雑用とは一体何をするのか。
すると、突然バンジークス先生が立ち止まった。





「……貴様は」
「へ?」
「一体、誰の物だと思っている?」
「え?え、う、わ、私は……」
「……ハッキリ言わないとわからぬようだな」
「ちょちょちょ、お、お待ちください!何が何だかわからないですけど、心の準備が……!!」
「……なら、時間を置いてやろう」





……と、それだけ最後に言って、再び歩き出した。
とにかく今すぐでは無くなったようだが、まったくわからない。

――ただ一つわかるのは、近いうちにここ最近抱いていたモヤモヤに決着がつく、ということだ。



***
 

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