A vampire of death , love is there?

□7話
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バロックの話をまとめると、こうだ。

なぜエッグ・ベネディクト―ルバート・クログレイは私を攫ったのか?
それは至極単純に、私の血を吸いたかったから。
私は吸血鬼の世界では有名らしく、そこら辺は知り得ないが、契約者がいてもなお吸いたいほど至上らしい。

しかし私は契約をしている。そもそも人間界から来ることも難しいわけで、契約した以上吸血を許されるのは契約者のみ。
そこで、クログレイはある者の協力を得た。


―その名を、コゼニー・メグンダル。

人間界、吸血鬼の世界の双方の闇に住まう者。
どちらの世界にも闇はあるわけで、彼が関わっている事件は数多くあるようだ。
クログレイは、ある日メグンダルに相談を持ち掛けた。





『ミレイ・シュヴェルツの名をご存知か?』
『ええ、よく知っておりますとも』
『……、……。そういうわけなのだが、私一人では限界がある』
『ふむ……貴公の望みは大衆の望み。その大衆に先駆け、叶えてやりましょう。……しかし、一つ条件がある』





それはクログレイの望みを叶える代わりに、メグンダルの望みを叶える手伝いをする、ということだった。
メグンダルの望みは未だわからないが、少なくとも今回の一件で、準備が進んでいるに違いない。

互いに納得のいく状態で交渉成立した二人は、早速計画を立てるのだった。


まず如何にして、私を人間界から攫ったか?
私にはバロックという契約者がいて、彼の目を避けるには頭をひねって方法を考え出す必要がある。
クログレイは、メグンダルの指示で私と身辺の素性を調べた。そのうえで、私とバロックを離す必要があるという答えに辿り着いた。

私も少しは疑問に思っていたのだが、攫われる2日程前から、バロックが吸血鬼の世界に行くことが多くなっていたのだ。
もしや、私と距離を置かせるために?


とにかく私に隙ができたとき、クログレイは私を攫った。
そこからはほとんどクログレイの自主的な行動だ。

全ての目的が、私の血を吸うことだとわかってから、クログレイの行動も理解できる。
まず、私が軟禁されているときに何回も言っていたのは、"私を生かしたままにする"こと。
食事も健康に相当気を遣っていたが、これは全て目的のためだったのだ。


そもそも生きていなければ、私の血を吸うことはできない。
そして至上の状態で吸血するには、貧血状態でない、健康な体でなければならないというわけだ。





『言っておきますが。縛るつもりはないですが、逃がすつもりもありませんので』
『……もし逃げたら?』
『目的を即時に遂行しますよ』





この会話にもあるように、クログレイは私を軟禁しつつ、吸血の頃合いを見計らっていたのだろう。
しかしその頃合いを決める前に、バロックとホームズが城に侵入してきたのだ。

二人は発煙筒を使って火事だと思わせるという方法で、城に侵入したそうだが、聞いてもいまいち理屈はわからなかった。
そしてバロックがクログレイに傷を与えたり、隙を作らせなかったことで、吸血を未遂に終わらせることができたのだ。


今、クログレイは何をしているのかは不明だが―少なくとも、メグンダルの活動は始まったばかりなのは決定的だ。





「……そういう、こと……」
「余談だが……私が城を離れる際に、メグンダルと会った」
「そ、そうだったのかい?様子は?」
「……笑っていた。余裕綽々たる笑みだ」
「クログレイは、ただの駒に過ぎないということだね」





バロックとホームズが考察を進める間に、私は違うことを考えていた。
考えが進むたびに悪いことばかりが浮かんできて、だんだん顔が俯いてきたため、最終的にバロックに気づかれてしまった。





「……ミレイ、どうかしたか」
「…………」
「言いたいことがあったら、今のうちに言ったほうがいいですよ。何せ……あの後ですから」
「……私のせいなのかな」
「!」
「クログレイさんの目的は私で……そのために良い人も悪い人も動いて……なら、私が元凶なんじゃ……」
「シュヴェルツさん……」





話がバロックによって進んでいくほどに、私の思考は線路から外れていった。
もはや、何が起こったのかという真相はどうでもよくなっていて、ただ一つ引っかかることがあった。

バロックやホームズにとっては、私は被害者。
だが、この結果に至ってしまったのは、私に流れている血。
しかも、前々から招待状という形で警告はあったのに、うかうかしていたから簡単に攫われてしまった。だから、バロックはホームズの手を借りてまで助けに来てくれた。

―そう、私は自分を責めていたのだ。





「……もう過去の話だろう。悔やむことなど何もない」
「っ……でも」
「ミレイ」
「!」





私が自分責めというループに陥りそうになると、バロックが突然首に近いところの顎を掴んで、自分の近くまで引き寄せた。
それが、出会ってばかりの頃に首を絞められたときと重なって、胸がきゅっと痛んだ。

私がうじうじしているから、痺れを切らして怒っているのだ。
掴まれた今だから冷静になれて、思い返せば自分でも腹立たしくなるのはよくわかった。





「……悔やんでどうなる?……今回の事件は、そなたの血に惑わされた者たちが引き起こした事件だ」
「……」
「言っておくが……その血が無かったら。私とそなたはこうして魅かれ合っていない」
「!」
「それでもなお喚くのなら……その口を塞ぐしかあるまい?」





―ああ、大丈夫だ。
と、胸にあった何かを混ぜて、融かされたようだ。

安堵で思わず頬が緩んだ傍で、ホームズが呆れたような、または諦めたような顔をしていた。
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