A vampire of death , love is there?

□7話
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「チッ……逃がしたか」
「……場所を変えるか?ルバート・クログレイ」
「……なら、貴様の契約者がいた部屋に招待して差し上げましょう。さぞかし様々な感情を抱くでしょうね」





ミレイとホームズが、ホームズによって作られた人間と吸血鬼の世界を繋ぐ穴で移動するまで、バロックはベネディクト―。
否、クログレイに拳銃をつきつけ続けていた。

未だに真の目的は明らかにされていないが、死は目的や計画の失敗になるためか、クログレイはおとなしかった。
クログレイを先頭に、拳銃はそのままで、ミレイが軟禁されていた部屋へ向かった。

部屋は今ではもうもぬけの殻だが、契約者であるからなのか、それとも単純に彼女自身によるものなのか、どこか愛おしく、悔やまれる感情が沸き起こる。





「……ミレイ」
「さて、どう出ますか」
「…………彼女のためにも、真相を聞き出しておかねばならん。貴様の結末はそれからだ」
「……いいでしょう」





部屋のど真ん中で向き合い、安全装置は外したままバロックは拳銃を下ろした。

クログレイは案外すぐに真相を話し出した。
まず結論、イコール目的から始まって、ミレイを誘拐する計画から、計画に関わっていた人物まで―。
特に最後の関連人物に予想外の者がいて、バロックは真相を聞き出すという目的は達成できたものの、一抹の不安を感じていた。





「貴様はただ……駒に過ぎないと?」
「ミレイさんに抱いていた欲望は本当です。しかしそれを叶えるためには、"その者"に協力する必要がありました」
「……貴様の望みを叶えてやる代わりに、"その者"にも協力しろ……という等価交換か」
「ええ。……まだ、"その者"の野望は潰えていません。いや寧ろ……これからですよ」





バロックに一抹の不安を感じさせたのは、クログレイとの会話で秘密の暗号のように繰り返される、"その者"という存在。
クログレイの不敵な笑みも語っている通り、今回ミレイが誘拐された事件は、ただの始まりに過ぎない。

しかし、ただの始まりとはいえ、バロックにとって重大な事件なのには変わりなく、憤らせるには十分だった。





「その供述は……しっかりと彼女に伝える。……真相を聞き出した後に、貴様の結末について決めると言ったが」
「……」
「貴様を殺しても、意味は無いと感じた。しかし……ミレイと同じ傷を負わせる必要はある」
「……!」





バロックは拳銃をクログレイに向け、命が奪われない程度の場所をと、狙いを定めた。
それでもクログレイに動揺が窺える。当然だろう、既にバロックに傷を負わされているのだから。

バロックだって、無駄なことをするのは面倒だ。
しかし、ミレイはどんな思いで過ごしたのか?それを考えるだけで、今にも我を失くしそうだ。





「……一度地獄に堕ちろ、ルバート・クログレイ」
「くっ……ぐおっ!っ……、!」





三発。バロックの指が動いたところで、拳銃のほうが弾切れしてしまった。
だが、クログレイに相当な傷を負わすことができたようだ。

三発の弾は腕、腹、足に撃ち込まれた。
この三発以外の一回に、肩に近いほうの腕も負傷しているため、満足のいく結果になった。
案の定クログレイは地面に膝をついてしまい、荒々しく息をしている。





「ベネディクトさ……ま、っ!?」
「……この城の者か?」
「え!あ、はい……」
「……そなたらが構う必要があるかはわからぬが、手当てしておいてくれ」
「わ、わかりました……」
「首謀者に伝えるのか」
「……私共は……ベネディクト様に雇われているだけですので」





拳銃の発砲音を聞きつけたのか、メイドらしき女が一人。
クログレイが主のようだから、無責任かもしれないが、面倒を見てもらうよう言った。
まあ手当てぐらい、主従関係ではなくともできるであろうが。

ついでに訊いておいたが、メイドはクログレイに雇われただけだそうだから、クログレイが協力していた首謀者と関わりはないようだ。





「……」





クログレイがメイドによって運ばれた後、バロックはまだ部屋に残っていた。
特に長く居たであろうベッドを眺め、思いを馳せる。

しばらく眺めた後、眉を下げ悲しそうに見つめながら、バロックは立ち去ることを決めた。
どうやら、城全体にかかっていた吸血鬼を防ぐバリアが、クログレイの負傷により弱まったものの、まだこの部屋にかかっているようだ。
なので部屋を出てから、この場を消え去ることにした。





「くく……」
「!!」





そして、部屋に続く廊下に、"M"と記されたコートやステッキを持つ紳士が一人。










***










「ほ、ホームズ、さん……?」
「……今の言葉は忘れてください。ほら、それに、大切な彼がもう来るようですよ」
「……!」





私に、手が届かない人。ホームズが言うのだから、吸血鬼なのだろうか。
でも私は、そこまで手が届かないようなことをした覚えはない。

忘れろと言われるほど忘れられない言葉を胸に抱き、現実の空間のほうに意識を向けた。
ホームズが来ると言ってすぐに、その空間に会いたくてたまらなかった者が現れた。





「バロック……!」
「……心配をかけたな」
「貴方は、もう……。何も悪くないでしょ?」





部屋にホームズがいることも構わず、バロックに向かって抱き着いた。
彼も同じくそれに存分に応えてくれる。

一度離れて、彼の全身を見る。……どうやら、目立った怪我はしていないようだ。





「……よかった、無事で……」
「何も反撃してこなかった。寧ろ……三発、入れてやった」
「!さすがね」
「探偵、拳銃だ」
「ああ。……僕はおいとましたほうがいいかい?」
「いや……真相だけ聞いてほしい」





真相―私が、攫われることになった顛末。
これだけは、聞いておかねば。
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