A vampire of death , love is there?

□6話
2ページ/5ページ

「!貴様……、あとその名はやめろ」
「つれないねぇ。ただでさえ取っつきにくい顔が、更に取っつきにくいよ」
「ふん……貴様こそ何をしているんだ」
「僕は”表”の仕事が終わったから、帰ってきただけさ。それより重大なのは君のほうではないのかい?」





バロックのことを”死神”と呼ぶのは、この男―シャーロック・ホームズただ一人だ。

ご察しの通り、ホームズもバロックと同じ吸血鬼だが、彼は少しだけ特殊な使命を持って人間界へ来ている。
それは、本能である吸血行為に加えて、”探偵”をしているのだ。
バロックの契約者であるミレイが住む村から、何キロも離れた大都会にて居を構え、都会の渦の中闇を抱える民の依頼を受けている。

なぜ吸血鬼である彼がそんなことをしているのかと聞かれれば、それも彼に潜む”性質”としか言いようがない。
しかし表向きは探偵で、その裏できちんと吸血鬼としても生きているらしい。





「……私に契約者がいるのは、よく知っているであろう」
「ああ、そうだね。とても話題になったよ」
「その契約者が……何者かによって攫われたのだ。しかも、同じ吸血鬼である可能性が高い」
「……今更そんなことをする奴がいるとはね」
「まったくだ。それに、今は契約者とのネットワークを切られている。しかしそんなことをできるのは同類のみ」
「バンジークスの言う通りだ。そういえば、今日は一年に一度のアレではなかったかな?」
「……!」





ホームズの言うアレとは、簡単に言えば吸血鬼と人間の世界、双方の扉が開く日なのである。
まず吸血鬼は何らかの使命がないと、人間界に降り立てない。
いっぽう人間のほうは、契約していないと吸血鬼の世界にも行けない。

しかし、今日はその制約が一日きり外される日なのだ。





「我々と同じ部類なら、関係ないかもしれないけどね」
「……とにかく。早く探さねば」
「しかし……ここも広い。どうするつもりだい?」





人間界に劣らず、吸血鬼の世界もだだっ広い。
頭に入れておく、なんて言っていられる場合ではないほどだ。

だがバロックには一つ案があった。
特にホームズがいるこの状況下で、ピッタリの案が。





「犯人は既にわかっているのだ」
「なんだ!それなら方法は一つだ。……君のその睨みが物語っているね」
「いいか、"探偵"。ルバート・クログレイ……あとエッグ・ベネディクト、だ」
「ルバート・クログレイ、ねえ。そいつは二つ名でもあるのかい?」
「いや、彼は偽名を使うことがある。それだけだ」
「……わかった。では、手がかりになりそうなことがわかり次第、真っ先に伝えるとしよう」





指をこめかみに当てるという、ホームズ特有の仕草をしてどこかへ行ってしまった。
ホームズは人間の世界で探偵をしているため、人探しなんかは得意分野である。
今は、人探しという軽い名では済まされない事態だが。

誰かに頼み事をするというのは、自分からは一切しない。
でも今は……大切な、一人の女性がかかっているのだ。










***









「ご主人様。……ご主人様?」
「ん……ん?あっ!ご、ごめんなさい」
「いいえ。夜ご飯でございます」





バロックのことを考えていたら、随分と時間が経っていたようで、大きなトレイを持ったカヤさんがいた。
トレイの上には7つも大中小様々な大きさの皿が並んでおり、それぞれ違うメニューが乗っていた。

所謂、フルコースというものだろうか。





「あ、ありがとうございます。……なんか、不思議ですね」
「なぜですか?」
「私は、攫われたんですよ?なのに、こんな豪華な食事をいただいちゃって……」
「……ご主人様には、健康体のまま生きている必要があります。ベネディクト様から聞いていると思われますが、衣食住を揃えることは最重要なのです」
「わ、わかりました」





カヤさんの言葉が脅迫めいていたのを感じて、おとなしくかつ有り難くフルコースをいただいた。
食事は部屋にあった、例の椅子と同じヴィクトリアン調の、四人ほど使える机を使っていた。

よく思い浮かぶのは、相手の顔すら遠くなる細長い机だが、そこまではないようだ。
しかし、カヤは四六時中何かしら動いているので、事実一人きりの食事である。

前菜を食べ終え、メインに差し掛かったところで、部屋の扉が開かれた。





「失礼。いかがでしょうか、私がしつらえた部屋、生活は」
「私には有り余るほどだわ」
「……結構。食事のほうは?」
「ええ、美味しいわよ」
「貴方は疑いもしなかったのですか」
「……何?毒でも入ってるんじゃないか、とか?あのねえ、貴方たちの話を聞いていたらわかるわよ。毒なんて入れられない、って」





入ってきたのは―というより、部屋に入ってくる人物は相当限られる。
来たのはベネディクトで、与えられた生活について質問攻めをしてきた。

特に食事に関する質問など、愚問に等しい。
一体どんなことを企てているのかは知らないが、その計画には私が生きていることが大前提なのだから。
私が攻撃的に言い返すと、ベネディクトは声を出さず不気味に笑った。





「貴方には、なるべく栄養をたくさん摂っていただきたい。このフルコースも、非常に考え抜かれたメニューなのですよ」
「……ふうん」
「……それにしても」
「っ!」
「貴方は美しい」





ベネディクトの話を流すように聞いて、適当に返事をしながら、ナイフとフォークを使って食べていたが……。

彼が近づいてきたと思ったときは既に、彼の指が私の喉に滑るように触れていた。
ちょうど食べ物が喉を通っていたのもあって、危機感が倍増する。
無暗に動いたり、変なことを言いでもしたら、何をされるかわからないため固まっていたが、少しずつ彼の化けの皮が剥がれていた感じがしていた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ