A vampire of death , love is there?

□5話
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「う、やば……貧血、予備軍かも……」





朝なのにも関わらず、なんと貧血気味になるまで吸われてしまった。
それに張本人であるバロックは、”お言葉に甘えて、一度帰らせていただく”と言って、吸血鬼の世界に行ってしまう始末。

まあ戻ったほうがいいのでは、と言い出したのは私だけれど。





「貧血にいいの、何だっけな……」





その苦し紛れな声も空しく、それを聞き入れる者はいなかった。

―そこから1日はバロックがここに来ることはなく、大した音沙汰もなく過ぎていった。
いや、1つ挙げておくならば、私宛に届いた郵便物についてだ。

やけに高価そうな封筒で、なんと封蝋までしてあり、便箋は羊皮紙という手の込みようだ。
ただ、差出人が書いてないとまでは言わないが、とても奇妙な書き方なのだ。





「”貴方を間接的によく知る紳士より”って……一体何なのかしら」





中の文面はこうだ。
『この手紙は、いずれ来たる日の招待状だと思ってほしい。必ずや、近い日に貴方様をお迎えにあがりましょう』
と、現代にしては特徴的な言い回しだ。

封筒、便箋でもそうだが、あまりにも奇異なものだから、ふとただの今生きている人間ではないのでは、とも思ってしまった。

少なくとも、いたずらではないと信じて、この手紙は大事に取っておくことにした。



―その日の夜、部屋にバロックが静かに現れた。
足音も、なるべく衣擦れすらも出さないように気を遣っていた。

それはまだ己の契約者が、ぐっすり夢の中にいるからだった。
契約者が安全にいることを確認すると、部屋のどこかから、同じ吸血鬼のオーラのようなものを感じた。

バロックは不審に思い、そのオーラを頼りに部屋を探る。





「ここ、か」





それはベッドとはほぼ真反対の角にある、机の引き出しから発されたものだった。
高さも幅も小さい引き出しを引いて、中を見てみた。





「これは、我々の世界の物……?それがなぜここに……?”貴方を間接的によく知る紳士より”……!まさか」





ハッとあることに気づき声を漏らした途端、契約者が唸って寝返りをした。
その仕草に現実に戻され、今日のうちは静かにさせておこうと、ちゃんと元の状態に戻してから、体を消えさせた。

でもいつかは、必ず伝えなければならない―。










***










「んっ、ふあ〜ぁ……」





今日はまるで日光に叩き起こされたかのように、起きてもなおあくびをする私。
頭の片隅に、久しぶりに長い間バロックと顔を合わせていないな、という思いがあった。

それにしても、数時間程度で気になるなんて重症ね、と自嘲気味に心の中で呟いた。

顔洗い、歯磨き、そして髪を整えに洗面所へ行こうとベッドから立ち上がったとき、一瞬ふらっと目まいがして倒れそうになった。
なんとか片方の足に重心を置いて、体を支えられたからいいが―。





「ん……なんか、首もおかしいのよね……」





片側の首を抑えて、肩こりをほぐすような仕草をしながら、洗面所へと向かう。
まず初めに顔を洗おうと、洗面台の前に立ち、髪の毛を後ろにまとめる。

すると、目の前の大きめな鏡に映った首筋の”アレ”に、意識が移った。

この数日間についた、吸血行為による傷痕。
なんとなくだが、どれが初めて血を吸われたときの傷痕かわかる。
それよりも―





「うっ……!!なんか、ちりちりする……っ!」





傷痕に意識を向けた途端、そのいくつもの傷跡がちりちりと、焼けたような痛みがした。
痛みだけでなく、痕が熱を持っているかのように熱い。
すると今度は息がしにくくなり、動悸のようなものがしてきた。

立っていられなくなり、熱を持つ傷痕と胸を押さえながら、その場に蹲る。

息をすることすらも精一杯なのに、私は無我夢中でこんなことを呟いた。





「……吸ってほしい……血を、吸ってほしい。血が……」





私に何かが憑りついて喋らせているかのように、血だとか、吸ってほしいだとか呟き続けていた。
その言葉に理解が追いつくのが遅く、十何回繰り返したときやっと、対策を思いついた。

洗面所を走って出て、自分の部屋へ息も絶え絶えに駆け込んだ。





「バロック、バロック……!」





ああ、最近私は彼のことを呼んでばかりだ。
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