A vampire of death , love is there?

□5話
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もう悪夢を見た恐怖など風に攫われて、ゆっくりと夢の中に吸い込まれていった。
と言っても夢は見なくて、ついさっきまで起きていたかのような感覚だったから、きっと相当の快眠を得られたのだろう。

それでも変わらず、私の体にはバロックの腕が回されたままだった。





「んーっ!よく眠れた」





そっと回された腕を解いてやって、上体を起こして伸びをする。
隣のバロックを見てみると、どうやらまだ眠っているようだった。

その寝顔を見ていると、後々大変なことに気がついた。
―寝顔。





「バロックの寝顔見るの、初めて……」





吸血鬼に睡眠が必要なのかはよくわからないが、バロックは本当に眠っている。
なぜかその時、私の悪戯心に火が点いた。

寝ているところを襲うわけではない、ただ遊ぶだけだ。





「わ、思ったよりふにふに……肌も白いし……」
「……」
「ん、乱れ髪かな。今のうちにくるくるしとこう」
「……」
「ふわあ……!男の人の顔周辺触るの初め……いたっ!!」





まずは一番最初に目に入った頬をつんつんしてみると、思ったより柔らかくそれに白いものだから、大福みたいであった。
頬には、自然に前髪かそれとも乱れ髪が垂れていて、ゆるくうねっていたため指に巻きつけて遊んだ。

火は消えることなく更に燃え盛り、さっきのことを同時にやっていたら、急に誰かに額を指で弾かれた。
と言っても、犯人はたった一人しかいないけれど。





「うう〜、バロック!もうちょっと手加減を……!」
「手加減したんだが」
「え、そうなの?ありがと……って!すっごい痛かったんだから!絶対力あるでしょ!」
「ふん……知らん」
「もう……っていうか、いつから起きてた?」
「……ただ遊ぶだけだと、言い訳を言っていたときから」
「ちょっと待って、それほとんどわかってて……って、それに心の声漏れてた!?」





私は未だにひりひりする額を抑えながら、ちょっと不機嫌そうに答えるバロックと戦っていた。
起きたばかりだからか、小さく唸って寝返りをするバロック。

そういえば、以前にも朝から言い合いをしていたような。





「ミレイが……自分がされるのは嫌がるくせに、何をしでかすのかと思ってな。しばらく黙っていた」
「なっ、だから襲うわけじゃないわよ!」
「あのな、私と寝たり、私の寝顔を見てなぜか喜んだりしている時点で、勘違いされるぞ。私ならまだしも、気の緩んだ奴だと……」
「ん?どういうこと?」
「……チッ」
「あ、今舌打ちした」





少しばかりはバロックが饒舌になったので、眠気は醒めたのだろう。
彼が体を起こして髪の毛を整えているとき、思い出した。





「そういえば、夜はずっと拘束しちゃったでしょ?一回、なんて言うの……”自分のところ”に戻ってもいいよ」
「……詳しくは言っていなかったか」
「ええ、いつも消えるとき、どこに行ってるの?」
「……吸血鬼にも吸血鬼の世界があるが、三次元ではあるものの少しズレている」
「ズレ……?」
「容易にお互いがお互いの世界に干渉しないためだ。お互いの世界に行くには……テレポートのようなものが必要なのだ」





更に詳しく書くと、人間も吸血鬼も、両方が両方の世界に行くことは可能なのだが、かなり制限がかかっている。
そのため、吸血鬼は使命をもって、それを遂行することを約束して人間界に来ている。
人間のほうは、私とバロックが交わした契約がないと行けない。

それで、お互いの秩序を安定させているのだという。





「ふうん……大体わかったかな」
「まあ、別の世界にいるとだけ思っていればいい」
「じゃあ、いつか連れてってくれる?吸血鬼の世界!」
「ふ、そうだな。考えておこう。……気遣いに感謝するが、吸血鬼の世界に向かう前に……」
「えっ、ちょっと待って、早いよ……!」
「いいだろう。気乗りした」





早速吸血鬼の世界に行くと思ったら、急に首を軽く掴んで引き寄せられると、朝っぱらから血を吸われた。
まったく、朝の寝起きの不機嫌さはどこへ行ったの、と心の中で毒づいていた。
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