A vampire of death , love is there?

□4話
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廊下に出ると、母はいなかったものの、リビングからシチューの良い匂いがここまで広がっていた。

私は何事もなかったかのように、リビングで両親と共に夕食をとった。
家族の団らんも込めて、夕食はゆっくりと時間をかけてとるようにしている。
もちろんシチューが冷めないように気をつけているが。

そして夕食を食べ終わってすぐに、お風呂に入ることにした。
浴室に行くと、淡々と服を脱ぎ、一通りさっとシャワーをして、お湯に浸かる。
お湯から上がる湯気が、なんとなく周りを見えなくさせ、私を閉じ込めているようで、今はこの閉鎖感が気持ちがよかった。





「……あー……今思うと、恥ずかしいことしたな」





それは、バロックと別れ際にした口づけ。
と言っても、とても短いもので、唇に触れたというほうが適当かもしれない。

それにしても……あんなことをしてしまったら、気があると思われたかも。
お風呂に上がってから部屋に戻ったら、彼はまだ待っているだろうか。
いてもいなくても、そう顔を合わせられそうにない。

のぼせる寸前まで入って、体がぽかぽかしたまま、寝間着に着替えて部屋に戻った。





「あ……いない」





案の定というのか、バロックは部屋にはいなかった。
きっと、彼もいろいろあるのだろうから、束縛するつもりはないけれど。

今日は何も考えたくなくて、少々早い時間ではあるのだが、もう眠ることにした。
また明日、一晩眠ってすっきりした状態で、彼と会おう。

お風呂で体が温められたため、一度ベッドの中に入ればすぐに眠りについた。





「……おやすみ、なさい……」










***










朝は、窓から差し込む太陽で目覚めた。
特に夢も見ずに、ぐっすりとしたよい睡眠をとることができたと思う。

ベッドから降りて窓際に立ち、太陽に当たりながら背伸びをすると、更にすっきりとした。





「バロック、そこにいるの?」
「ミレイは……透視能力でもあるのか」
「あはは、そんなのないよ。ただいるかなー、って思っただけよ。おはよう、バロック」
「ああ、おはよう」





誰もいない空間に向かって声をかけると、ちょうどその位置にバロックが現れた。

なんだ、意外と話せるじゃない。





「こうやって、いつも通りの朝を迎えるのは……貴方とは、初めてね」
「そうだな」
「ね、なんか飲みたいのある?私は眠気覚ましにコーヒーを飲むつもりだけど」
「……せっかくそなたがいるのなら、ワインをいれてもらいたい」
「……朝から大丈夫なの?」
「ああ」
「なら、いれてあげる。ワインはどこに……」





私が言いかけた途端、バロックの近くで光の粒子のようなものが舞った。
そこに、なんとワインのボトルとグラスが現れたのだ。

両方とも、金で装飾された豪華なものだ。





「わっ!な、なにこれ……!?」
「私の所有物は……私と同じように、消えたり、現れたりすることができる」
「へえ……すごい!便利ね〜」
「くく、そうだな」
「じゃあ、ソファで待ってて。机も持ってきてあげるから」
「それぐらいやってやるが……」
「いいの!今は客人だと思ってて」





半強制的にバロックをソファに座らせて、リビングから小さい丸テーブルを運び、その上にワインボトルとグラスを乗せる。
そしてボトルの栓を開け、グラス―バロックが言うには聖杯に、ワインをとくとくと注ぎ入れる。
この注ぐときの音がまた心地いい。





「……よし。はい、どうぞ」
「すまないな。……」
「お味はいかがです?」
「ん……美味い。……よくできたな」
「!……っ、ほ、褒めても何も出ないんだからね!……で、でも、ありがとう」
「くくっ……」





ワインをいれたあとはバロックの隣に座って、至極愉快そうにワインを嗜む彼を見ていた。

そういえば気づかなかったわけではないが、彼は相当身長が高い。
性別の差ももちろんあるだろうが、彼はきっと男性の中でもかなり高いほうだと思う。
こうやって今は座っている状態だが、私の頭は大体彼の胸辺りにある。





「バロックって……ほんと背が高いのね」
「ああ……よく言われる」
「でも……なんか安心するなぁ」
「ん、なぜ?」
「身長が同じよりもね、見下ろされてる感じがいいの」
「そうか」





ワインを飲むバロックを見ながら話していると、突然彼が飲むのをやめ、私のことを逸らしもせず見つめてきた。
その視線に縫われたように、動きが止まる。
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