A vampire of death , love is there?

□2話
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その日は、悲しみやどこからか湧き出る怒り、虚無感で食事が喉に通らない……と思いきや、
寧ろその感情を感じることを恐れ、逆に食事に集中したり、お風呂で無心になったりして過ごしていた。

家族と話をすれば、一瞬は重たい心の荷物が下りたような気はするが、寝るときにベッドに入った時だとかに、感じようとしなかった感情が一気に襲う。
いずれは眠りに落ちたものの、私が眠っている間にも、その悲劇の歯車は回転を続ける。





「おはよう、ミレイ。昨晩は……」
「おはよう。……ぐっすりとは言えないけど、眠れたは眠れたよ」
「そう……よかった。でも……昨日に続いて悪いけどね」





朝はわざわざ母が部屋に来てくれたのだが、相変わらず表情は晴れないものの、胸に何やら紙を数枚まとめられた冊子のようなものを抱えていた。
それをしぶしぶ私に渡して去った。

何だろうと表紙を見てみると、母が苦しそうだった理由がわかった。
それは、先日亡くなったいとこについての調査報告だった。
その証拠に、隅に小さく都市の警察の名前が記されてあった。

またその内容も衝撃的で、まず死因は"出血多量による失血死"。
だが刃物で刺されたり、鈍器で殴られた様子はなく、失血するきっかけとなったのが……。





「首筋にあった……牙の、痕……?」





報告書を持つ手に力が無くなり、紙ははらはらと力なく床に落ちる。
そこに書かれた死因を呟けば、それと同じところが私にもあることを思い出し、そこがちくりと疼き出した。

鏡でその痕を確かめるも、どう考えてもそうだ。
いとこは、吸血鬼に血を過剰に吸われて亡くなったのだ。
しかし吸血鬼の噂はここの村だけのため、都市の警察はそうは書かず、何らかの武器を使って首筋に孔を開けたと片付けられている。

気が付けば私は、家を出てあの血が点々と染みる森へと足を踏み入れていた。
いとこが今まで住んでいた館が木々から顔を覗かせるたび、歩を進める足はどんどん早くなる。
そして、昨日も訪れた玄関に来れた、と思った瞬間後ろから何者かに腕を引かれ、森の茂みまで連れて行かれた。





「ちょ、ちょっと……離して!」
「しっ!静かにしてください」





女性の人の声だった。しかも聞いたことのある。

道すら無い森の中でようやく止まったので、犯人のほうを見てみると―。
その犯人は、昨日館へ届け物をした時に玄関に出てくれた、あのメイドだった。





「!あ、貴方は……」
「……昨日は、申し訳ありませんでした」
「なぜ貴方が謝るのですか……?」
「……もちろん、主……いとこが亡くなったのはお聞きしたと思います。……実は、昨日シュヴェルツ様がいらした時既に……主は、亡くなっておりました」
「ええ……って、えっ?」





深く頭を下げて謝罪をしたメイド。
その後もずっと、私に申し訳ないことをした、という悲しみをひしひしと感じる顔をしながら離してくれていたのだが、一瞬耳を疑った。

いとこは、私が届け物をした時点で亡くなっていた?





「待ってください、それは……」
「事実です。……ずっと、隠しておりました……」
「……」
「シュヴェルツ様がいらっしゃる数時間ほど前に、死亡が確認されて……。でも、ある事情がありまして隠ぺいをしなくてはならない状況に」
「事情?」
「!でも、シュヴェルツ様には……」
「いいです。それでも、いとこが亡くなった状況を知りたいのです」
「…………バロック・バンジークス」
「!?」





バロック・バンジークス……!?

これは運命なのか、とてもよく知る名前がメイドの口から出てきた。
メイドはとても渋い顔をして、バロックの名を精一杯力の限り絞り出したようだ。

私の中で、点でしかなかった事実が、線によって結ばれてゆく。
いとこの首筋にあった牙の痕、失血死という死因、バロック、吸血鬼……。





「あの、今館を調べることは……?」
「申し訳ございません、今都市の警察の方がおりまして……一般の方は入れないのです」
「そう、ですか……。ありがとうございます。きっと、言いにくかったですよね」
「いいえ……シュヴェルツ様のためになると思ったので」
「ちょっと……思いついたことがあるので、家に帰ります。これから貴方は……?」
「遺品整理など……ですね。シュヴェルツ様、どうか、お気をつけて」





最後のメイドの言葉は、傍から見ればただの別れの言葉なのだろうけど、今の私にはとても染みた。
"気を付けて"……。

帰りの森は、いつもより暗く感じた。
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