A vampire of death , love is there?

□2話
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気づけば私は、ソファの真反対にある部屋のベッドに寝かされていた。
生憎ここに来た時の時間は見ておらず、どれほどの時間が経ったかはわからなかったが、ご丁寧に布団を首までかけてくれていた。

意識を失う原因となった人物は、悠々と部屋の窓の窓台に片足を乗せてもたれかかっている。
そしてどこから持って来たのか、ワインを片手に飲んでいた。





「あ…………」
「……おや、早いお目ざめだな」
「……ふん。貴方のせいじゃない。で、これからどうするつもり?」
「それをそなたが目覚めたら尋ねようと思っていてな……ずっと、この村の景色を見ていたのだ」





バロックが、きっと今まで見ていたであろう窓の外を向く。
上体を起こした体勢で私も見てみると、
そこには、生まれた頃から見慣れた素朴な家と木が、交互に並んでいるというような、自然と共にある景色があった。





「この一度きりで、そなたを諦めるのには勿体無くてな」
「……そんな!私を永遠の一人にするつもり?私、貴方を満足させられるほど、体力も血もないわ。いつか死んでしまう」
「その心配はいらぬ。……最終手段ではあるが。そなたを永遠に捕らえておく術はあるのだ」





こちらを見たバロックの目が、今きらりと光った。
まだ体が元気なうちは、その手段は聞かないでおくのが得策と考えた。





「……えっと、バンジークスだっけ?」
「おや、名前を覚えてくれたとは」
「べ、別に違うわよっ!……貴方、さっき私を諦めたくないみたいなこと言ったけど……どうしたいの?」
「……そうだな。それもついでに考えていたのだが……お嬢さんは、吸血鬼が血を吸わないと生きていけないことぐらい、わかるかね?」
「もちろん」
「お嬢さんの血は……生きる糧にもしたいほど、極上なのだ」





思わず、今のバロックの言葉に鳥肌が立った。
私の脳内変換が合っていれば、だが、今の言葉は吸血鬼にとってはプロポーズとも言えるのだ。

今まで饒舌だった反動もあるのか、彼への返答に言葉を濁してしまう。
彼は目を優しく細めたまま、静かに私の答えを待っていてくれた。
そんな沈黙に耐えかねて、適当にその場繋ぎの言葉を繕おうと思った瞬間、家中に悲痛な声が響いた。

それは、先刻の沈黙よりも遥かに上回るほど、耐えかねた事態であった。





「…………う、嘘……」
「……シュヴェルツ、」
「……い、いとこが……死んでるって…………」





家中に響いたのは、きっと市場へ買い出しから帰ってきたところだろう母の声で、それは『いとこが館で亡くなっていた』というものだった。

プロポーズもどきに返す言葉を考えるなんて足元にも及ばず、私自身も死んだようにベッドから降り、バロックのほうを見向きもせず部屋を出た。
廊下で偶然か必然か、母とばったり会ったが、恐怖ゆえ皮膚が痙攣したようになり、顔もひきつって、ひどい有り様だった。
それなのにも関わらず、現段階での状況を説明してくれた。

どうやら、いとこが亡くなったとわかっただけで、原因や死亡推定時刻もまだはっきりしていないし、葬式の準備も含めて今は動けないようだ。
それに、ここの村には緊急の際の医者はいるものの、警察関係は都市のほうからわざわざ呼ばなくてはならないため、時間がかかるのだ。

ただただ、何もしてやれないことが、無気力で仕方なかった。





「ミレイ、貴方は休んでいなさい。……お母さんは葬儀の準備もあるから」
「……うん。お母さんも、休まなきゃだめだよ?」
「ええ、わかってるわ」





そう軽くやり取りをして、ここのところは別れた。

部屋に戻ると、とても言葉では言い表せない、複雑な表情をしたバロックがいた。
自分のテリトリーでもある部屋に、他人がいるのはあまり許容範囲ではないのだが、今日ばかりは脱力してベッドに倒れこんだ。





「…………」
「……話は聞いた。今日ばかりは……ここに留まることは難しそうだな」
「……元々、貴方には関係ないことでしょ」
「それは、どうだろうか」
「……何よ」





何やら思いつめたような声でバロックが言ったので、思わず睨んでしまった。
もし彼に関係あったとして、何なのだろうか。

今の私では、それを考える気力すらもなかった。





「……まあ、直にわかることだ。私はもう帰るが、そなたを諦めたわけではない。また明日、ここに来るからな」
「…………」
「たとえ……そなたがどんな状態になろうと、必ず」





最後の言葉が引っかかってバロックのほうを見た頃には、まるでテレポートでもしたかのように、姿を消していた。

確かに。
その答えは、直にわかることだったのだ。
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