A vampire of death , love is there?

□1話
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「きゃっ!?」
「ああ……やっとお帰りになったか、お嬢さん」





あまりにも驚いて、一歩後ろに小さくジャンプして飛び退いた。

待って、確かに扉の鍵を閉めて出かけたのに……!
部屋には両開きの窓もあるが、それは内側に鍵が付いていて、扉を開ける鍵でしか開かないような仕組みになっている。
なのに、部屋の中に侵入者がいるではないか。

侵入者は、背もたれが壁のほうにあり、部屋の中を向くようにある二人掛け用のソファに悠々と座っており、私が来るなり立ち上がった。
どのような服を着ているかは、漆黒のマントによって大部分が隠されてわからなかったが、紫の髪をしており、他に見える部分であれば白い手袋をしていて、黒いブーツだ。
これだけの説明では黒が大部分と思えるが、ところどころに金の縁取りや装飾があるため、豪華絢爛さを引き出している。





「あ、貴方、誰……?」
「私はバロック・バンジークス。そうだな、数十分前ほどからお嬢さんを待ち侘びていた」
「でも……私は、貴方のこと知らない……」





バロックと名乗る謎の侵入者は、穏やかな表情で、私を宥めるように話してくれるのだが、どうも私の体は彼を警戒していた。
声と体が震えているものだから、相手は受け入れ態勢なのに恥ずかしい。

私が"知らない"と言うと、バロックはその言葉に反応して、目を伏せ気味に呟いた。





「……そうか。あの時は死角であったか」
「……死角?」
「では、お嬢さん。そなたの”直感”に問うとしよう。……私は何者だと思う?」
「な、何者って……それは、私が聞きた……」





聞きたいほうだ、と言おうとしたら、私の体の中に電気が流れた。
その電気は、私に一つの答えを示した。

もし普通の人間ならば、わざわざ問うことはしないだろう。
問うことがあるとしたら、それは人間ではないことを表しているようなものだ。
私は恐る恐る、バロックに言ってみた。

答えは既に出ていて、それが、たとえ―。





「……貴方は、もしかして……吸血鬼、」
「くく……上出来だ」
「っ!?」





ただ彼の正体を一言言うと、突然目の前に転移したように現れて、腕を引かれ半回転させられると、口を大きな右手で塞がれた。
今私の体は、バロックに包み込まれるようになっていた。





「んん、んっ……!」
「あまり大きな声を出さないほうがいい……。特にこの村の者は、私のようなものに敏感だと聞いた」
「っ……」
「それに……」





彼の右手は固定されたまま、左手は私の首、腰、太腿と次々とラインをなぞっていく。
そして、耳元で囁かれた。





「そなたからは、一定の距離を置いても馨しい匂いがする……。そうやって、吸血鬼をくすぐる匂いを散らす者の血は―とても美味いのだそうだ」
「っ!?ま、まさか……吸うつもり……!?」
「そうでなければ、なぜ来るというのだ?」
「!…………」





バロックが言ったことが図星で、返すことが出来ず、唇を強く噛みしめた。
そうだ、吸血鬼なのだから当たり前だ―。
そう、現実逃避をする他なかった。





「そなたのその態度は、私に血を吸われることを受け入れるということで、よいのだな?」
「……じゃないと、ん、貴方帰らないでしょう?」
「!……ふ、よくわかっているお嬢さんだ。なに、心配することはない。実は先ほども血を吸ってきたばかりでな……たくさん吸うつもりはないのだよ」





すると、バロックはようやく右手を私の口から離したものの、髪を多少横にどかして、うなじがよく見えるようにした。
首が空気にさらされているのと、彼に己の血が吸われようとしている、という事実があってとてもくすぐったかった。

ちなみに、左腕が私の腰に回されホールドされている。逃げられない、か。





「それでは……いただこうか」
「……っく……!」





バロックの牙が、私の首の皮膚を裂いて中へ入ってゆく。
このような感覚は初めてで、だんだんと私の体に流れる血が、湧き上がっているようになる。

そして少し経つと、まさに”啜る”という言葉が似合うように、バロックの中へ私の血が吸われていくのがわかった。





「っはぁ……ん……」
「っ、痛い……それに、っ、なんか、変……!」
「我慢、しろ……」





そうやって言葉をかけられた時には既に、目の前が霞んできて、牙が抜かれたかと認識することは、飛ばされた意識がそれを許さなかった。



〜次章へ続く〜



2話

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