A vampire of death , love is there?

□8話
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「ねーミレイさん、今度はあたしが質問していい?」
「ええ、いいわよ」
「ミレイさんは、お兄ちゃんと契約したんだよね?」
「……おにい、ちゃん?」





お兄ちゃん、って……?

いや、契約したのはバロック一人しかいない。
だが、彼が"お兄ちゃん"にあたるのかどうか……。





「死神のお兄ちゃんのことだよー!」
「死神、って……やっぱりバロック?」
「うん。ミレイさん、お兄ちゃんがそう呼ばれてるの知らない?」
「ううん……あ、ホームズさんが"死神くん"って呼んでたかも。でも、バロックからは聞いてないよ」
「あれ?言ってないんだー……」
「どうしてお兄ちゃん、って呼んでるの?」
「あたしと本当のお兄ちゃんみたいに接してくれるのー!ホームズくんとよく会うからね」





なんだ、お兄ちゃんみたいな存在っていうことか。
それに関しては一件落着だが、"死神"という部分が気になる。
しかも、それが気になったのは一回だけではない。





『彼はですね、死神と呼ばれているのですよ。意味はそのまま』
『……過去に死者でも出たの?』
『……今はいいだろう、昔の話は』
『むー……いつか必ず教えてよね!』
『ふん……』





確か、私が誘拐された事件で、軟禁されていた部屋からバロックが救出してくれた後――。
そこで初めてホームズさんと出会って、こういう会話をしたのだ。

"いつか教えて"とは言ったものの、私から訊いても教えてくれることはないだろう。
アイリスがちらっと呟いていたが、彼女にとって教えていないことは不思議なことのようだ。
それだけバロックにとっては、教えたくない過去なのだろうか。

どっちにしろ、今知っても仕方がないかもしれない。





「ねえねえ、契約してるってことは"紋章"あるの?」
「あ、ああ、あるけど……普段は無いわよ?」
「自分で手の甲に触れてみて?」
「触れて……あっ!」
「おー!ほんとにあるんだねー!」





私が考えを巡らせていると、既にアイリスは次の質問をしていた。
彼女に言われた通り、普段は何もないはずの手の甲にさっと触れてみると、なんとバロックと契約した時のように紋章が発光したのだ。

そして、もう一度同じように触れると消えた……。
自分の契約の証なのに自分で驚いてしまったが、どうしてアイリスは知っていたのだろう?





「これ、ホームズさんにもあるんじゃないの?」
「うん、あるよ。だけどね、最近は誰かと契約してないから……」
「え、契約ってやめることもできるの?」
「できないことはないけど……すっごいリスクがあるの。とにかくホームズくんは今は契約者がいないから、あまり紋章は使ってないの」
「そうなの……だからアイリスちゃん、いろいろ訊きたかったのね」
「えへへ……」





頬を染めて照れるアイリスが可愛くて、思わず頭を撫でた。
彼女から聞くことには、知らないことばかりでこちらが勉強になってしまっている。

ホームズには以前契約者がいたようだが、リスクを伴ったうえで契約を切った。
そのことを話すアイリスの表情が暗かったのもあり、吸血鬼の闇のようなものに触れた気がして少し不安だ。

すると、ソファからアイリスがジャンプしてこう言った。





「もっとお話したいけど……もう帰らなきゃ!愛用のパイプが無くて怒られるのも困るし!」
「そう、もう帰っちゃうの?」
「ごめんね……でも、次はあたしとホームズくんの家に招待してあげるの!ちゃんとお兄ちゃんにも話しておいてね?」
「!うん、わかった。それを楽しみに待ってるわ」





そうしてアイリスはこっそり私の部屋を出て、母に気づかれないようにすぐ玄関を出て行った。
ワープしないのかと訊くと、"まだヘタだから"と言っていた。
見えなくなるまで手を振っていたが、自分の妹のように思えてきて別れが寂しい。

けど、次は家に招待してくれるのだ。
それを楽しみに、今はバロックの帰りを待とう。










***










アイリスが帰ってしまった後は、特に目的もなくぼーっと自分の部屋で過ごしていた。
目的というよりかは、バロックの帰りを待つことを心の拠りどころとしている。

すると、急に目の前が真っ暗になった。

人のぬくもりのようなものを後ろに感じるので、目隠しでもされているのだろうか。
いや、目隠しにしてはかなり逞しい何かのような……。





「ただいま」
「え、バロック!?」
「くく、驚いたか」
「え、ほんと気づかなかった……というか、貴方そういうことするタイプなの?」
「さあな」





耳元で囁かれて、やっと誰かがわかった。
どうやら私の真後ろにワープしてきたようで、バロックが腕で私の顔を覆っていたのだ。
それにしても、触れられたよりも先に目の前が真っ暗になったから、命の危険すらも感じかねない。

こうして見事引っかかった私に、バロックは愉快そうでどこか嬉しそうな顔をしていた。





「あ……言い忘れてた。……おかえりなさい、バロック」
「ああ」
「その、何も無かった?えっと、奇襲とか……」
「幸いなことに、無事だ。不気味なほどにな」
「そ、そう……よかった。そもそも誘拐された場所に戻る自体おかしいのよ……ドレスを返しに行くなんて」
「そなたが言い出したようなものではないか」
「同意したのもバロックでしょ?」
「ふ、お互い様、というわけか」





やはり心のどこかで、バロックが無事かどうか常に心配していたのだ。
その心配が溜まっていたのと、無事に帰って来て安心したのが伴って、逆に苛立ちが爆発してしまった。
しかしその状況を作り出したのはお互い様、そう笑い合った。

そういえば、私のほうにも報告すべきことがある。





「そういえばね、バロック。アイリス・ワトソンって子知ってるわよね?」
「!会ったのか?」
「ええ、アイリスちゃんのほうからわざわざ会いに来てくれたの。ホームズさんが忘れ物したみたいで」
「あの探偵め……」
「ふふ。貴方、アイリスちゃんに"お兄ちゃん"なんて呼ばれてるんだって?」
「……」
「そんな顔しないで、私は呼ばないから」





"お兄ちゃん"と私が呼ぶとなぜか不機嫌になる。
まあ、アイリスの特権と言うべきか。

私が呼ぶとおちょくってるみたいだし、普通に名前で呼んでほしいのだろう。
そして、あの約束のことも話さなくては。





「そう、それでね……アイリスちゃんが今度家に招待してくれるって言うのよ」
「家……ということは、探偵が仕事をしている場所か」
「ええ。行ったことある?」
「ああ、何度か」
「たぶん、近いうちにアイリスちゃんが迎えに来てくれるはず……。どうする?バロックもついて来る?」





私は軽い気持ちで訊いたつもりだったのだが、なぜかバロックが顔を顰めた。
そしてなぜか、彼の大きな手で私の顎を包むように掴んでこう言い放った。





「言っておくが、ミレイ。あの事件があった直後だぞ?私がそなたを一人放っておくと思うか?」
「!んん……それはわか、」
「アイリスやホームズがいるとは言え、そなたはすべての吸血鬼に狙われているのだ。それなりの緊張感を持たぬと、命などすぐに落とすぞ」
「ちょ、ちょっと……バロック!物言いにも文句はあるけど、待って。私が"すべての吸血鬼に狙われてる"ってどういうことよ?」
「…………仕方ない。あの事件があった後だ、説明するとしよう」





乱暴に顎から手を離すと、今度は腕を掴まれ、ソファに座らされた。
普段よりも力が強いのが少し怖い。





「ミレイ。あの事件の真相は覚えているな?」
「え、まあ……私が目的だったんでしょ?……私にバロックがいることを知っていながら、奪いたいほどに……」
「それがわかればよい。とにかく、そなたに対してそのような感情を抱く吸血鬼は、ほぼ全員と言っていい」
「そ、そんな……」
「敢えて訊くつもりはないが、同じ感情を持つ吸血鬼の中から、そなたは私を選んだ」
「……聞きたいなら言ってあげるわよ?」
「……今はいい」





たぶん、私がバロックを選んだ理由を話すと空気が壊れるからだろう。
今は仕方ないけど、心の中で言ってあげる。

――バロック、貴方のことが好きだからよ。
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