A vampire of death , love is there?

□8話
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また、頭がガンガンと痛む。
今朝の目覚めと同じだが、今度の場合は決して嫌ではない。

部屋を見渡すと契約者は既にいなくなっており、あのドレスも消えているから、吸血鬼の世界に戻しに行ったのだろう。
何事もなく、ただ帰って来てくれればいい。
切実な思いを、両手を組んで異世界に捧げた。





「ミレイ、部屋入っていい?」
「あ、お母さん!いいよ」
「あら、起きたばかりだったかしら」
「そうだけど、気にしないで。何かあったの?」
「いや、お客様がいらしてたのよ。ミレイに用があるみたいだったわ」
「え……どんな人?」
「そうねぇ、まだ幼い子供、みたいな感じ。でも可愛い女の子だったわよ」





母を部屋に入れて、話を聞いていると少し体が強ばった。
私を知っている人物……もはや今は、吸血鬼関連しかいない。

と思ったが、母は幼い子供だと言う。
私の名前を知っている人物に、幼い子供はいない。
それで少し体が緩んだが、知っているということは吸血鬼の仲間、なのだろうか――?





「ありがとう、行ってみる」





玄関に向かう前に、洗面所に寄って軽く身だしなみを整えておいた。
そして、来訪者が待つ玄関へ。

どうやら外で待たせてしまっていたようで、ゆっくり扉を開けると、来訪者はそこにいた。
――確かに、幼い子供。
私の半分くらいしか身長がないのでは、というくらい小さい。

印象的な部分と言えば、髪の色は可愛いピンクで、ツインテールのように左右に分けている。リボンやハートマークのような形が可愛い。
あとはお嬢様みたいなお洋服に、不思議な眼鏡のようなものを頭につけている、というくらいだろうか。





「えっと、あの……」
「あ!もしかして、ミレイさん!?」
「え、あ、はい、私です」
「申し遅れました。あたしは、探偵のシャーロック・ホームズと同居しております、アイリス・ワトソンと申しますの!」
「へー、シャーロック・ホームズとね…………え!?あ、あの名探偵の!?」





なかなか積極的ながらも、礼儀正しい子。
育ちが良いのだろうな、と思っていると、"シャーロック・ホームズ"という聞き慣れた名が……。

その探偵の顔を頭の中に思い浮かべると同時に、目の前にいるアイリス・ワトソンを見比べる。
一体、何がどうなって二人が同居しているのだろう……?
訊きたいこともありすぎて、体がフリーズしてしまっていた。





「驚いてるところ申し訳ないけど……ホームズくん、忘れ物していかなかった?」
「…………っは、わ、忘れ物?どうだろう……ど、どんなものかな?」
「えっと……ホームズくん愛用のパイプなんだけどね」
「パイプかぁ……でも、そういうのがあったら気づくけど」





もしホームズが私の家に忘れ物をするのなら、私を吸血鬼の世界の城から救い出してくれた日、所謂昨日しかない。
それに、吸血鬼の世界からはワープのような形で戻って来たため、私の部屋でしか行動していない。
となると、捜索範囲は狭くなる。なら……。





「ねえ、アイリスちゃん、って言ったよね?」
「うん!」
「ずっと立ってても辛いし……たぶんパイプがあるのは私の部屋だから、一緒に探さない?」
「!いいよ!」
「それに……いろいろ話したいこともあるしね」





最後の言葉、聞こえてたかな。










***










何となくお母さんに姿を見られないようにと、アイリスと急いで部屋に入った。
部屋に入るとアイリスは360度をぐるりと見渡して、その後ソファを凝視していた。





「ソファに何かある?」
「うーん……」
「……もしかして……。……あ!」
「あ、あった!」





ソファの上には何も無く、ソファの下に何かあるのでは?と直感が働き、床に手をついて覗いてみるとそこにあった。
少し埃をかぶった、綺麗な曲線を持つパイプが。

アイリスでは手が届かなかったため、私が手を伸ばしてパイプを取った。
息を吹きかけて埃を取り、アイリスに手渡した。





「これでいい?」
「うん!ありがとう、ミレイさん!」
「いいのよ。ちょっと座ろうか」
「そうだね!」
「……アイリスちゃん、貴方も吸血鬼?」





ソファに座ろうと促し、なるべく柔らかい、子供と話す雰囲気を出して直球に問う。
すると、アイリスはほんの少し目を見開いた。
図星なのか否かはまだわからないが、子供にしてはとても冷静だ。

さすがホームズと同居するほどの人物である。





「……うん!そうだよ」
「……そう……。ねえ、私から訊きたいこと、全部訊いていい?」
「もちろん」
「どうして私と、この家のことがわかったの?」
「それはね……このパイプ、ソファの下にあったでしょ?吸血鬼の持ち物は、独特のオーラを発しててね……それを頼りに来たの!」
「!そうなの……」





だから、さっきソファが気になっていたのか。
なら、バロックの持ち物も私になら感じれるかもしれない……。





「あとミレイさんのことは、前から知ってたよ。有名だからね!」
「有名……ねえ、私は貴方たちの中でどう認識されてるの?」
「えーっとね……確か、すごい血の持ち主なんでしょ?吸血鬼が惹かれる血を持ってて、皆が狙ってるって」
「……」
「まあ、あたしはホームズくんから聞いたのがほとんどだけどね!」





本当に頭を抱えたい気分になった。
確かバロックと出会ったばかりの時に、似たようなことを言われた気がする。
"匂い"――私は、吸血鬼をくすぐる匂いの持ち主だ、って。

その匂いの実害が、つい最近の誘拐事件。
信じたくはないが、あれっきりではないのだろう。
吸血鬼に魅入られてしまった時点で、運命は決していたのだから。





「と、いうか……アイリスちゃんも血を吸うの?なんか、そうは見えないというか……」
「まだ私は見習いだから、吸血はしないよ」
「え、吸血鬼にもそういうのあるの?序列みたいな……」
「年齢、みたいなものだよ。私は実際にも年齢が低いし、吸血鬼になって間もないから、まだ人間の血は吸えないの。
まだコントロールができないから、相手を殺しちゃったりしちゃうからね!」
「そ、そう……」





こんなに可愛いのに、"殺す"なんて言葉聞くなんて……。
でも吸血鬼は血に塗れた生物だから、当たり前だけれど。

なら、バロックも相当私に無理させないようにしてくれてるのかな。





「じゃあ、ホームズさんとか、私の契約者とかは……」
「もうベテラン、って感じ!」
「なるほどね〜……。ホームズさんと同居してるってことは、探偵のお仕事も?」
「うん!手伝ってるの。吸血鬼としては私はお勉強中だから、寧ろお手伝いが中心だよ」





シャーロック・ホームズは、この村から遠く離れた都市部で探偵をしている。
吸血鬼という身分を隠してまで、この世界にいる理由は知らないが……。
その疑問と好奇心が相まって、アイリスにこんな提案をした。





「じゃあさ、機会があるときに、その探偵をやってる拠点みたいな……そういうところに連れてってくれない?」
「え、遊びに来てくれるの!?」
「ふふ、そういうことになるわね。ホームズさんにはお世話になったし……ま、ただの口実だけどね」
「やったー!じゃあ、いっぱいもてなしてあげる!約束だよ?」
「うん!約束」





お互いに"約束"と呟いて、指きりをした。
アイリスはとても嬉しそうにしていた。

こんな可愛い子が、いずれ吸血鬼として血を求めて生きていくのだと思うと、少し複雑な気持ちだ。
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