Sweet dreams-DGS

□Footsteps of darkness
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「あ、そういえばもうすぐ倫敦万博ですよね?」
「そうですね」
「人多いかなぁ……」
「それはそうでしょうね、国を挙げて力を注いでいる博覧会ですし、国外からも客が来ますから」
「そうですか……。でも私、一度でいいからドレッバーさんと行きたいです!」





丸テーブルを挟んで向かい合って座る少女と男性。
そのテーブルには、倫敦万博の開催が間近だということを知らせる新聞記事が広げられている。

それを見ながらまだ幼いとも見て取れる少女ミレイは、向かいのドレッバーに曇りのない笑顔を見せた。
まさか自分にそんな笑顔を見せる人がいるとは、と困惑したが腹を決めた。





「いいですよ」
「えっ、」
「人の多さは避けられませんけど。……いい、思い出になると思いますよ」
「!!……あ、ありがとう〜!ドレッバーさん!」
「わっ、」





少女は目を輝かせると突然立ち上がって、ドレッバーの首に抱きついた。
予想外のことにドレッバーは動くことすらできなかった。





「ミレイ、さん」
「ふふ、私ね、こうやって一日中ドレッバーさんといるのも好きですけど……一緒にお出かけしたいなって思ってたんです」
「!……」
「あ、言い出しっぺの私が言うのもアレですけど、あまり服持って来てないんですよね」





始めは半ば強制的にここにいることになったから、その時に来ていた素朴な服とドレッバーが用意した寝間着しか持っていなかった。
しかも外出すら最近はしていないため、工房ではずっと寝間着で過ごしていた。





「服なら行く途中で買えばいい。店ですぐに着ればそのまま行けるでしょ?」
「あ!そうですね、じゃあもう決まりですね?」
「ふ……」





まるで少女に言い包められた感じもしていたが、寧ろそれが心地良いと感じていたドレッバーだった。





「……ミレイさん、」
「抱きつかれるの……嫌、ですか?」
「!……いいえ、貴方から来られると……オレも止まらなくなってしまいますよ?」
「っ!、あ、その、私は……」
「もう遅いです」
「あっ、!」





ドレッバーはミレイの首に顔をうずめると、下から上に舐め上げたり軽く痕がつく程度に噛んだりした。
ミレイはくすぐったくて身を捩じらせるも、やめてほしくないと思う自分もいた。

首を舐めていた舌は耳元まで行き、ドレッバーは甘く囁く。





「約束ですよ……ミレイさん」
「もち、ろんです……っ」
「オレは貴方を絶対に離すつもりはありませんから」
「?私は、どこにも行きませんよ……?ひゃ、ぁ」
「フッ……オレにのこのことついて来て。その時点で十分物好きですもんね?」
「ん、私はほんとに、その、ドレッバーさんならいいかなって……」





その多様な意味を持つ言葉にも、恥ずかし気にでも真っ直ぐと見つめるミレイにただただ愛おしさが増すばかりだった。
それが独占欲であったとしても、せめて今は愛おしさに混ぜたかった。










***










倫敦万博開催から数日が経ったある日、ミレイとドレッバーは外出用の服を買いに倫敦の店を訪れていた。
ミレイは楽しそうに服選びをしていていくつか候補を決めているようだが、少し気になることがあった。





「ミレイさん、候補に黒い服が多くないですか」
「?それのどうかなさいましたか?」
「……のに……、いえ、まだ年頃なんですからもう少し鮮やかな色を選べばいいのに、と思って」
「ピンクとか、ってことですか?いいんですよっ、私はドレッバーさんとお揃いのがいいんです!」
「!」





そう、ミレイが言う通りドレッバーが着ているようなモノトーンの服ばかり選んでいるのだ。
たださすがは若い淑女、どれも女性らしい可愛いものばかりでもある。

……どうやら、ドレッバーがぼそりと呟いた『可愛いのに』という言葉は聞こえていないようだった。

そして候補から一着決めたようで、手早くやることを終え早速着てみることになった。
今は店員と共に試着室に入っている。





「ドレッバーさん、どうですか?」
「!似合ってます。とても」
「本当ですか!?嬉しいですっ、ほら黒とか灰色が基調ですけど、スカートだから女の子らしいでしょう?」





試着室のカーテンを開けて、ミレイは可憐にくるりと一回転した。
黒と灰色を基調にチェック柄も使ってあり、ドレッバーと似たような雰囲気を漂わせながら女性らしい愛くるしさも出ていた。





「これで外を歩けるなんて、ドキドキします……!」
「勿体ないくらいですね」
「それは、可愛いってことでいいんですよね?」
「……お好きに」





ドレッバーはそっぽを向いてミレイは頬をピンク色に染めていた。
ただ可愛いと思ったのは本心だし、何より自分に合わせたいと思ってくれただけで嬉しくて仕方がなかった。





「では、倫敦万博へ行きましょう!」
「はい」





ミレイは楽しそうにドレッバーの手を引く。

彼女がその黒い渦に巻き込まれるのか、そしてその未来がどうなるのかは誰も予想がつかない。
そして、あの科学実験による爆発事件までのカウントダウンが始まった。



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