お話

□プロローグ 黒猫
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△ 名古屋・とあるコンビニ ▽

〜♪ 〜♪

聞き覚えのある短いメロディーが客の来店を告げた。レジに立つ若者はやる気のない挨拶をした。店内はとても静かだ。
とある夕暮れのことである。
ふと外の音に耳を傾ければ、ザアザアと耳障りな雨の音が途切れることなく鳴り響いている。いつもよりも陰鬱な日だった。
先ほど入店した客はというと、これから買い物をするにしては少々変わった格好をしていた。持ち物は蝙蝠傘ひとつで、財布のようなものを持っているふうには見られない。何よりその派手な金髪が目に付いた。蝙蝠傘の黒色と相まって、どことなく底気味悪い。
その男は店内を物色する様子もなくつかつかとレジまで歩み寄ると、派手な金髪を雨粒でさらにきらきらとさせながら、アルバイトに声をかけた。

「雨降ってたから、迎えに来た。」

先ほど纏っていた雰囲気はどこへやら、にぱっと愛嬌のある笑顔はまだ幼くあどけない空気を纏っている。アルバイトは呆れた目で金髪を睨みつけた。この金髪の男以外にも客は二、三人程いるが、誰もこの派手な頭には目もくれず、黙々と商品を物色している。アルバイトの青年はそれをしっかりと確認してから、他人には聞こえない程度の小さな声で「バイト、あと2時間は終わらないんだけど。」と呟いた。


 
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