何も変わらないもの 【完結】
□何も変わらないもの 6
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何も変わらないもの 6
んー…朝?
目を開けたら床に座り、ベッドに腕と頭を乗せていた。
カーテンの隙間から漏れる眩しい光。
朝だ…。
いつの間に寝ちゃったんだろう。
…そうだ、電話してた。
謝って、仁王くんに『嫌じゃ。』って言われて…なんだっけ?
思い出せない。
まさか、電話の途中で寝ちゃったのかな…?
でも,どっちにしろ許してもらえなかったわけで。
今まで避けてたのに、許してくれないと嫌だなんて、わがままだよね。
でも、噂とかじゃない、本当の『テニス部』を知って、いいなって思った。
もう二度と話せないのかなぁ?
自然と涙があふれる。
なんで朝から泣かなきゃいけないのー…。
自分でも驚いた。
いつの間にこんな『テニス部』が大切になってたの?
イメージとの違い、自分をきちんと見てくれた、こんな自分に関わろうとしてくれたという嬉しさ。
きっと、色んなものが同時に重なって、私の中の『テニス部』の存在が大きくなったんだろう。
今さら気付いても、もうどうすることも出来ない。
そう思うとまた涙があふれる。
泣いたってどうにもならないのに。
――――
仁王said
もし、田中が俺の言葉を最後まで聞いてなかったとしたら…。
さっきから俺の頭の中はこんなぜよ。
俺らしくもない…素、じゃな。
この俺でも、かなり焦ってる。
きちんと謝ってきたやつに対して、『嫌じゃ。』と言ってしまった。
その後、解説のようなもんを付けたが、聞いていたじゃろうか…?
俺が軽率じゃった。
少しばかり引っ掛けてやろう、そういつもの癖で、真剣な相手の気持ちを踏みにじった。
俺も謝らんとな。
真田「仁王のやつ、一体どうしたというのだ?どこかそわそわしているように見えるが。」
柳生「…分かりませんが、今朝からあの調子ですよ。」
仁王「聞こえとるぜよ。…別に何もなか。」
ポーカーフェイスが崩れてるんじゃろか。
急いで直さんと…危ない危ない。
柳「仁王が女子のことを考えている確率、84%…。そしてそれが当たっていた場合、その女子というのがあそこにいる田中こまちである確率96%…。」
参謀め、なんてことを言うんじゃ。
と思っていたのはほんの数秒。
今は参謀の目線の先に田中を探している。
一回しか会ったことないが、覚えてる。
見つけた。
小さい体で危なっかしい歩き方。
あれじゃどこ行っても遠足気分だと思われるナリ。
仁王「田中!おはようさん。」
俺はわざと明るめに近づいていく。
すると田中は、少しずつ後ずさる。
電話の内容を聞いていたことを信じる。
後ずさったのは冗談だと笑いながら言うのを待ってる。
でも、俺のその希望は、直ぐに消え去る。
なんで泣いとるんじゃ…。
やっぱり、聞いてなかったんか。
仁王「昨日は、すまん。」
「え?」
田中は相当驚いている。
実は俺も驚いている。
田中の泣いたあとの顔を見た途端、じっとしていられなかった。
俺が田中が寝ているあとに言ったことを、もう一度言う。
ほかの奴らの覚えてるのも言う。
この時の俺はなぜか記憶力があった。
田中は鼻を触りながらへへっと笑って
「私も急に寝ちゃってごめん。」
と言った。
その場にいた俺も、ロッカーの陰に隠れて見ていた他のやつらも、全員その笑顔にやられて照れた。