野良猫【完結】
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絶対に付き合わない。
絶対断る。
そう決めていたのに、自分の気持ちに嘘をついて、彼の気持ちも無駄にしてお断りするのは、思うほど簡単じゃなかった。
※
「怖いんです…。」
こんなこと言うつもりなかったのに、勝手に言葉が出てくる。
白石「…怖い?」
白石さんが心配そうに私をジッと見つめる。
「私…人に裏切られるのが…人が…怖いんです。」
白石「?」
きっと知らない人に話しかけていた私が『人が怖い』なんて言うと思わなかっただろう。
でも、私は本当は誰よりも人が怖くて仕方ない。
克服するために社交辞令の傷付かない安全な場所で慣れようとしていただけだった。
「私、あなたたちとこんなに仲良くなるなんて、こんなに好きになってしまうなんて思ってなかった。」
白石「え…?」
『好き』というワードにか、敬語じゃないことにか分からないけど、白石さんは口を開けて驚いていた。
「白石さんが好きです。…だけど、だからこそお付き合いできません。」
はっきり、きっぱりと想いを伝える。
白石「そっか…。」
ああ、心が痛む。
そんなに悲しい顔して俯かないで…。
白石「とでも言うと思ったん?」
白石さんは悲しい顔からキリッとした顔で、まっすぐに見つめてきた。
「え?」
驚いた。
白石さんは何を言ってるんだろう。
何が言いたいんだろうって考えて、結局答えは見つからなくて、思考停止してしまった。
白石「俺はなぁ!田中さん…こまちが好きなんや!傷付けるわけないやろ!泣かせるわけないやろ!何も怖いことあらへん。」
急に大きいはっきりとした声が静かな夜に響く。
急な名前呼びと勢いに驚き、固まる。
白石「こまちの過去になんか辛いことがあったんかも知らんけど、それは過去の話やろ?今は俺がこまちを好きなんや。それとも、俺がこまちを裏切って傷付けると思っとん?そんな奴をこまちは好きになったんか?」
白石さんの声は、まっすぐ心に響いた。
今目の前に好きな人がいて、私のことを好きだと言ってくれてるのに、一体私は何をしているんだろう?
私は気付かないうちにぼろぼろと涙を零していた。
「ち、がう…白石さんは優しくて、芯がしっかりしてて、ちゃんと自分の考えを持ってて…。私はそ、んな白石さん、が好き。私は…白石さんが…」
そこまで言った途端、フワッと温かいものに包まれた。
白石さんが私を抱きしめたのだ。
「し、らいしさん、ご、めんなさ、」
白石「謝らんといてや。俺も自分勝手やったな。田中さんの気持ちも考えんで色々言ってしもた…。」
落ち着いた白石さんは、『田中さん』呼びに戻っていて、可愛いと思った。
次に告白されたら、付き合ってって言われたらもう絶対に断ることが出来ないくらい、白石さんが好きになってしまった。