小説
□剣術の先生
3ページ/4ページ
「握り方は大丈夫だろ。基本的に使うのは左手だから、右手は添える程度…そうだ」
(…っ…)
右手を上から、鷹司の大きな手で包まれてどきっとする。
「ぶれるのは力みすぎてるからだ。肩の力は抜いて…ー」
(集中…っ!)
ー 手が問題の箇所に置かれる度に意識してしまい、悟られまいとするのに、私は必死だった。
それでも、そうすることによる鷹司の指摘はわかりやすく、徐々によくなっていくのがわかる。
ー 『剣先についた水滴を飛ばせ』
(私の剣術には、冴えがない)
本来ならば、先程の鷹司のような音が鳴るはずなのに。
このままでは咄嗟に避けようにも反応が遅れるし、読まれる。
(だけど、頑張れる気がしてきた)
「振りおろす瞬間だけ、右手首を押し出してみろ」
音こそないものの、力を抜くことで振りに鋭さが出てきた気がする。
(もう少し…)
あと少し、頑張れば ー
(あっ…)
カラン
ー 突然ふっと握力がなくなり、木刀を落としてしまった。
(もう、無理なの…?)
拾おうにも、それは手をすり抜けて。
「雛菊。できるか?」
呆然としていると、拾い上げられた木刀が目の前に差しだされた。
(たか…つかさ…?)
ー いつもなら、むしろ「無理するな」とでも言いそうな…
「できるよな?」
もう一度、強く言われてはっとする。
(私の剣術に、ここまで向き合ってくれる人がいる)
当人が弱気でどうするのだ。
「…できる」
ー ひとふりの価値が変わったようだった。
持っているもの、全てを懸けるような勢いで振り続ける。
(まだできるっ!もう一回)
…ー…ー ピュッ
「…あっ…」
私も鷹司も、目を丸くした。
「鳴った…?」
「ああ、鳴った」
(やった…!)
嬉しくて、疲れも忘れて振り続ける。
鳴るときと鳴らないときがあるけれど。
(できないわけじゃないんだ)
そのことを自信に、身につくまで練習を重ねる。
やっとの思いで、私は連続して音を出せるようになった。