小説

□剣術の先生
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「握り方は大丈夫だろ。基本的に使うのは左手だから、右手は添える程度…そうだ」

(…っ…)

右手を上から、鷹司の大きな手で包まれてどきっとする。

「ぶれるのは力みすぎてるからだ。肩の力は抜いて…ー」

(集中…っ!)

ー 手が問題の箇所に置かれる度に意識してしまい、悟られまいとするのに、私は必死だった。

それでも、そうすることによる鷹司の指摘はわかりやすく、徐々によくなっていくのがわかる。

ー 『剣先についた水滴を飛ばせ』

(私の剣術には、冴えがない)

本来ならば、先程の鷹司のような音が鳴るはずなのに。

このままでは咄嗟に避けようにも反応が遅れるし、読まれる。

(だけど、頑張れる気がしてきた)

「振りおろす瞬間だけ、右手首を押し出してみろ」

音こそないものの、力を抜くことで振りに鋭さが出てきた気がする。

(もう少し…)

あと少し、頑張れば ー

(あっ…)

カラン

ー 突然ふっと握力がなくなり、木刀を落としてしまった。

(もう、無理なの…?)

拾おうにも、それは手をすり抜けて。

「雛菊。できるか?」

呆然としていると、拾い上げられた木刀が目の前に差しだされた。

(たか…つかさ…?)

ー いつもなら、むしろ「無理するな」とでも言いそうな…

「できるよな?」

もう一度、強く言われてはっとする。

(私の剣術に、ここまで向き合ってくれる人がいる)

当人が弱気でどうするのだ。

「…できる」

ー ひとふりの価値が変わったようだった。

持っているもの、全てを懸けるような勢いで振り続ける。

(まだできるっ!もう一回)

…ー…ー ピュッ

「…あっ…」

私も鷹司も、目を丸くした。

「鳴った…?」

「ああ、鳴った」

(やった…!)

嬉しくて、疲れも忘れて振り続ける。

鳴るときと鳴らないときがあるけれど。

(できないわけじゃないんだ)

そのことを自信に、身につくまで練習を重ねる。

やっとの思いで、私は連続して音を出せるようになった。
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