小説
□剣術の先生
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(それにしても)
「鷹司が、剣術を…?」
思わず呟く。
文武両道という評は聞いていた
ー 実際、かなりの腕だとも
(…だけど…)
「なんだよ。まさかできないとでも思ってたのか?」
ぴくりと眉が動くのを見て、私は慌てて首を横にふった。
「違うよ!ただ鷹司が素振りとかしてるとこ見たことないから、その…印象がなくて」
(…えっ?)
突然、目の前に手が出される。
戸惑って見上げると、むすっとした表情で私の手元を見ていて ー
(貸せ、ってこと…?)
木刀を受け取った鷹司が構える。
(すごい…)
空気を切る音が道場に響いた。
一本一本はまさに彼を表していて。
真っ直ぐさ
丁寧さ
にじみ出る品格 ー
(きっと敵だとしても惹きこまれる)
舞台でも観に行ったかのような感動に突き動かされて、思わず拍手が出た。
「これくらい、俺だってできる」
わかっただろ?
そう得意気に笑う顔からは、先程の不機嫌さは感じられない。
(当然なんだろうけど、私が夏津さんに教わってきたことは完璧だった…)
「ありがとう、鷹司。鷹司が見本見せてくれたお蔭で、理想像が掴めた」
清々しくて笑みがもれると、頬を染めて顔を反らされる。
「…まあ、役に立てたならよかった」
「あの…鷹司」
「ん?」
「お願いします!」
いつも『先生』にするように、姿勢を正して礼をする。
「ああ。…構えてみろ」
優しい笑顔で返されて、私は再び木刀を握りなおした。