小説
□橙
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ー 障子の向こうはまだ暗い
城を抜け出すと、鷹司の馬がいた。
「乗れるよな」
「うん!」
鷹司に乗馬の稽古はつけてもらったので、一応できる。
「だいぶ慣れてきたか」
私が乗ったのを確認すると、今度は鷹司が、ひらりと後ろに跨った。
(さすがだな…)
「ほら、動くぞ。前見ろ」
見こなしの綺麗さに見惚れていると、馬は脇腹を蹴られて、凄い速さで走り始める。
「きゃっ!」
ー 冷たい風が頬をかすめて。
「お前、やっぱり寒いんじゃねえか?」
抱く腕に力が込められ、鷹司の胸板に背中がぴたりとくっついた。
(…あったかい…)
ー だけど、これでは手綱が操りにくそうだ。
「大丈夫だから…」
腕をそっと掴んで見上げると、ふっと吐息を感じてどきっとする。
「この方があったかいんだよ。いい具合にお前が風除けになってくれるから」
ー 私の反応を見て面白がっているのか、気遣いなのか。
(鷹司なら、どっちもかな)
乗馬が好きなのは知っていたが、本当にいきいきとして楽しんでいるのがわかる。
(邪魔しない方がいいよね)
今はお言葉に甘えよう。
私は鷹司にそっと体を預けた。