小説

□夜ふかしは…
1ページ/1ページ





「鷹司、明日も早いんでしょう?」

「あとちょいだ」

「それ、さっきも言ってたもん」



部屋の隅から声をかけ続けるも、鷹司は書物から顔をあげようとしない。

もう夜も更けている

徹夜は昨日もだった。このままでは…ー


「っ雛菊?」


不意にこちらに目を向けた鷹司が、私が居るのを確認するなりハッと目を見開いた。

(いま気づくなんて…)


「ねえ、やっぱり疲れてるんでしょ
う?」


震えそうになる声を絞り出すと、鷹司は小さく「悪い…」とこぼす。


「お前の都合も忘れるなんてどうかしてる。後で必ずいくから、な?先に寝て待ってろ」


焦ったように近づいてきて、頬に手が添えられた。

覗きこんでくる瞳をじっと見つめて、静かにかえす。


「…嫌。」

「雛菊…」

「鷹司が来てくれるまで、ずっとここにいるから」


真近でみると、鷹司がやつれているのは明らかだった。

隈が出来、きめの細かい肌は潤いをなくして。


「鷹司に倒れられたら困る…」


口にしただけでじわりと涙が滲み、鷹司の手を濡らす。


「お願いだから…っ」

「…雛菊…」


ふわりと、唇が掠めとられた。


「わかったよ。もう寝るから、泣くな」

「うん…っ」

「怖がらせたな」

(…何よりもこわかったよ…)


ぽんぽんと頭に手がおかれる。

文机を整理して戻ってくるなり、抱え上げられようとした。


「無茶はやめて!鷹司」


悲痛な叫びがとどいたのか渋々立ち上がると、手が差し出される。


「お前を落としたら大変だ。…よく寝
て、お前の信用を取り戻さねえと」

「ふふっ、そうしてください」


褥にはいるなり寝息をたてはじめた鷹司の横顔をみつめて、私もあっという間に眠りの世界へ落ちていく。





翌朝。


「鷹司、そろそろ時間だよ。起きて、ねえってば!」







これ以後。鷹司家当主は、規則正しい睡眠をなにより重んじたという ー








[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ