小説
□飴と鞭で教えて〜おはぎ目線〜
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このところ鷹司さんは、城中を忙しそうに駆け回っていた。
今日は宴がおこなわれているみたいだ
広間の庭で休める場所を探した僕は、賑やかな声を聞きながらぼんやり辺りの景色を眺めて時間を過ごす。
(鷹司さん疲れてるだろうなぁ。僕にも何かできればいいのに…)
じっと地を見つめて考えていると、ふいに人の気配がした。
(…!どうして…)
「足元、暗いから気をつけろよ」
見えたのは大好きなご主人様と ー
見知らぬ女性だった
(鷹司さんっ!雛菊さんがいながら、一体なにを…)
駆け寄ろうとしたところで、少し離れたところで悲しそうに俯く女性を見つける
(雛菊さん!ああもう、これは鷹司さんの役目なのに)
「わ、おはぎ静かに…鷹司に気づかれちゃう」
呆然と佇むその足元へ体を擦り寄せる
と、雛菊さんははっと目を見開いてから慌てて声を潜める。
(そんなに弱気にならないで。鷹司さんの一番なんだから、もっと堂々としていていいんだ)
「誰に気づかれるって?」
肩越しに見えた影に安堵しつつ、雛菊さんが逃げないようくっついていると、すっと鷹司さんの後ろから出てきた女性が僕を見て目を輝かせた。
(…っ?)
「家光様がつれていらっしゃる柴犬は、もしかしておはぎですか?」
ー どうやら鷹司さんと一緒にいたの
は、僕を探していたらしい
「ああ…そうだが」
「家光様、私にも触らせていただけませんか?」
「それは…おはぎがよければ」
きらきらと目を向けられて、僕は思わず恐いと思ってしまった。
(う…落ち込ませてしまったようだけど)
しょんぼりする女性に胸が痛んだが、雛菊さんの側は離れたくない。
「おはぎ、大丈夫だ。この人は鷹司の友達だから恐くない」
「悪いな。少しだけ撫でさせてやってくれるか?」
(友達…なのか。ふたりの頼みなら)
了承代わりにひとつ吠えると、雛菊さんがホッとしたように微笑む。
撫でながら女性が話してくれたこと。
ふたりは恋仲だと見破られていたこと。
顔を見合わせて照れるふたりのご主人様を見ながら、やっぱりお似合いだと思った。
後日 ー
「どれだけ好きだって言っても、あいつ同じだけ返してくるんだ。
俺は雛菊に夢中だって知ってほしいの
にそれじゃ意味ないだろ」
僕を撫でて真剣に悩んでいた鷹司さんの姿があったことをここに報告しておきたい。
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