小説

□剣術の先生
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「同じことばかり言わせるな」

夏津さんが溜息を吐く。

「ごめんなさい。もう一度 ー」

「できもしないのに見たって、時間の無駄だ」

「…はい」

ー 今日はもういい。

そう言って、夏津さんは道場を出て行った。

(どうしてできないんだろう)

ひとりになった途端緊張が解け、余計なことまで考えてしまう。

(集中しなきゃ)

ー そう思うのに、振りはどんどんぶれていって。

(…いったん落ち着かなきゃ)

このまま続けても、上達は望めない。

木刀を下ろすとため息が出た。

「お前ほんと、よくやるよな」

「鷹司…!?」

ー いつの間に来たのだろうか

声のする方を見ると、彼が曖昧な笑みを浮かべて立っていた。

「夏津に聞いた。今日の稽古は終わらせたけど、お前なら残ってやってるんじゃねえかって」

遠回しだけど、みてやれってことだろ

そう呟いてこちらへ向かってくる。

(怒らせたと思ったのに…)

こんな風に気を利かせてくれるなんて。

ー 確かに夏津さんは厳しいけど、できるまで根気強く注意し続けてくれるし、そこに妥協は無い。

今回だって、きっと私の練習不足を見抜いて、時間をくれたのだろう。

本人は否定するかもしれないけど、やっぱり優しい人だと思う。

(次のお稽古で、お礼を言おう)

それを伝えるためにも、この時間を無駄にはできない

気を引き締めて、私は木刀を握りなおした。
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