小説
□自由を求めて
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わかっていた。
いつまでも逃げてばかりじゃいられねえんだってことくらい。
だけど俺は、自由になりたかったんだ。
(この命は、俺のものじゃない)
それが堪らなく嫌で、俺は俺なんだって堂々と言える日を夢見てきた。
でもそれは、まだ待てる。
ー 最近、ますますお世継ぎをとの声が高まっている。
(家光ひとりに任せきりで、本当にいいのか…?)
俺はまだ、正室第一候補とはいえ『嫌だ』と言うことができた。
だけど、将軍には ー
誰かを指名しない限り、ずっとこの問題がつき纏ってくるんだ。
(俺が正室になることを認めちまえば、この件は一旦落ち着く)
「大奥に縛られる」って考えを変えられたなら。
(こんな風に思うようになるなんて、俺も変わったな)
ー それはきっと、あいつのお蔭だ。
突然影武者を押し付けられたのに、全てを受け入れて自分の意志で務め上げた、あいつの…
(遠からず『無理矢理』正室にされる日がくるんだろ?)
きっとそこに、俺たちの意志は関係ない。
(だったらその前に、俺は『俺の意志』でなってやる)
政の道具じゃない。
ー 俺は、俺だ。
*
今まで毛嫌いしていた家光。
実際、気にくわないところはある。
仲良くしようとも思わない。
だけど、誰よりも互いを理解し合えることは確かだ。
(この立場に生まれた者にしかわからないことも、な)
俺が自由になるのは、お世継ぎの問題全て解決してからでもできる。
今は家光を放っておくべきではない。
「おい、いるか?…入るぞ」
いつぶりだろうか、ここに自ら来ようと思ったのは。
返事を待たずに、俺は襖に手をかけた ー