小説

□自由を求めて
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わかっていた。

いつまでも逃げてばかりじゃいられねえんだってことくらい。

だけど俺は、自由になりたかったんだ。

(この命は、俺のものじゃない)

それが堪らなく嫌で、俺は俺なんだって堂々と言える日を夢見てきた。

でもそれは、まだ待てる。

ー 最近、ますますお世継ぎをとの声が高まっている。

(家光ひとりに任せきりで、本当にいいのか…?)

俺はまだ、正室第一候補とはいえ『嫌だ』と言うことができた。

だけど、将軍には ー

誰かを指名しない限り、ずっとこの問題がつき纏ってくるんだ。

(俺が正室になることを認めちまえば、この件は一旦落ち着く)

「大奥に縛られる」って考えを変えられたなら。

(こんな風に思うようになるなんて、俺も変わったな)

ー それはきっと、あいつのお蔭だ。

突然影武者を押し付けられたのに、全てを受け入れて自分の意志で務め上げた、あいつの…

(遠からず『無理矢理』正室にされる日がくるんだろ?)

きっとそこに、俺たちの意志は関係ない。

(だったらその前に、俺は『俺の意志』でなってやる)

政の道具じゃない。

ー 俺は、俺だ。



今まで毛嫌いしていた家光。

実際、気にくわないところはある。

仲良くしようとも思わない。

だけど、誰よりも互いを理解し合えることは確かだ。

(この立場に生まれた者にしかわからないことも、な)

俺が自由になるのは、お世継ぎの問題全て解決してからでもできる。

今は家光を放っておくべきではない。

「おい、いるか?…入るぞ」

いつぶりだろうか、ここに自ら来ようと思ったのは。

返事を待たずに、俺は襖に手をかけた ー

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