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□【06 ある日のこと】
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【06 ある日のこと】

高1の秋。
私の高校では学園祭に向けて準備が進んでいた。
部活も学祭に向けて気合が入っていた。

「唄ちゃんとバンドできるのこれでラストとか寂しすぎるんだけど〜〜」

唄ちゃんに抱きつきながら訴える。

「悠莉ちゃん、部活中。それにその話何回も聞いたから〜〜」

笑いながら答える唄ちゃん。
だって本当に寂しすぎる。

「唄ちゃんがいなくなるならとももバンドやめる〜〜」

半泣き状態で訴える。

「だから、それもダメって何度も言ってる。もともと俺らのバンドギター2人だし、俺が抜けても裕太がリードギターすればいいし、問題ないでしょ?それより悠莉ちゃんが抜けた方がバンドに迷惑かかるから。」

私の頭を撫でながら唄ちゃんがなだめる。
バンドメンバーはまたか、という顔で見ている。

「やだやだ〜〜唄ちゃんいなくちゃ、ともがミスったとき歌でカバーしてくれる人いなくなる。」

私はベースに集中しすぎると歌が飛ぶ事が結構ある。
でもその度に唄ちゃんがアドリブで歌ってくれるから、周りはツインボーカルのバンドだとわりと思っている。

「悠莉ちゃんも2年生になるんだから、そこは成長しなくちゃダメね。それに後輩だって入ってくるしもしかしたら本当にツインボーカルのバンドになるかもでしょ?」

「そうかもだけど、それは可能性の話じゃん。」

ぶっちゃけ唄ちゃんがいたからバンドに入れてもらっただけで、このバンドにはタメもいないしほぼ唄ちゃんと話してるから心細い。

「それに、来年俺が学祭きた時に俺のいたバンドがなくなってるのは正直寂しいよ?」

「うっ。」

確かに唄ちゃんが1年生の時に作ったバンドが続いていくのは嬉しい。
それを私のわがままで壊してしまうのは嫌な気もする。

他の2年生も頼れる人ばかりだし、裕太くんもバンドのリーダーになりたがってるし、私が辞めるのは申し訳ない。

3年生は唄ちゃんとキーボードの村上先輩の2人だけだし、抜けてもそれを補うことはできる。

「悠莉ちゃん、私のことも少しは寂しがってよ〜」

笑いながら村上先輩がいう。

今度は村上先輩に抱きつきながら、

「もちろん村上先輩が抜けるのも寂しいよ。女の子ともだけになっちゃうし。」

「悠莉ちゃん?それに今回の学祭、俺ら大トリよ?それすごいことでしょ?なら、最後まで楽しもうや!」

裕太くんにもなだめられる。

確かに20組以上いるバンドで学祭で演奏できるバンドは5組だけ。
しかもその大トリを任されている。
それは校内でも人気がある証拠。

「わかった。ともが抜けるかどうかは学祭終わってから考える。」

こんなやりとりがここ1週間続いている。

「悠莉ちゃん抜けたらボーカルもベースも探さなきゃになるから本当困るから!」

裕太くんが付け足す。

「ともより優秀なボーカルとベースができる1年生くるかもじゃん!」

「それこそ可能性の話やで?」

ドラムのてっちゃんが後押しする。

「む、そうだけど。」

「はい!この話はこれで終わり。練習するよ!?」

村上先輩の言葉でみんな定位置につく。
私も渋々、定位置に。

辞めるのは学祭終わってからちゃんと考えよう。


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