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□【05 始動】
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【05 始動】
放課後。
かなとの待ち合わせの駅前で待っている。
待ち合わせの時間をとっくに過ぎているのにかなはやってこない。
イライラし始めたその時遠くから走ってくる男の子が見えた。
すっごい必死そうだけど走るの遅いな。
なんて思ってたらその子は私の前までやって来た。
刹那くんだった。
走るの遅いとか思ってごめん。
息を荒げながら刹那くんが話す。
「悠莉ちゃ、、ん、はぁ、ごめ、」
「うん。落ち着いてからでいいよ。」
笑いながら答える私。
なんか和むんだよなこの子。
少し経ってから刹那くんが、
「本当、遅くなってごめんね。奏くんと先にスタジオに行ってて、そしたら待ち合わせは駅だったとか言い出すから、急いで迎えに来た。」
ちょっと待って。
今日スタジオとか聞いてないんだけど。
かながミーティングとか言うから私はてっきり近くの公園かファミレスかなんかで話すのだと思っていた。
「え?スタジオ予約してあるの?」
「うん。奏くん話すより音を聞いた方が早いからって。今朝予約してた。」
全く自分勝手なやつだな。
それなら連絡くらいしろよ!
てかそもそもかなが迎え来いよ!
と思いながらも必死に走ってきてくれた刹那くんに免じて許すことにした。
「刹那くんもごめんね。あいつ勝手で。」
「それはいつものことだよ(笑)」
笑いながら、とりあえずスタジオに向かうことにした。
スタジオにつくなり、
「よお!とも遅かったな!場所伝えなくてわりぃな!」
ぶん殴ってやろうかと思った。
「かなのそーゆうとこ本当やめた方がいいよ?刹那くんが走ってきてくれなかったらとも帰ってたからね?」
少しキレ気味に言う。
「だからごめんて、それよりお前ちゃんとベース持ってきてるよな?」
いや、見ればわかるだろう。
そんなに身長の高くない私がこのでかいベース持ってきてるんだから。
部活帰りじゃなかったら持ってきてなかったけど。
「お取り込み中のとこごめんね〜〜?俺、蛍!久保田蛍ね!」
元気よく挨拶をしてきた男の子が多分刹那くんのお友達のドラムの子。
「んじゃ、メンバー揃ったし、はじめっか!」
ノリノリのかなを見てまたぶん殴ってやりたくなる。
「ちょっと待って、いきなり合わせるの?ミーティングって言ってたじゃん!?」
「自己紹介とかもいらないし、とりあえず合わせてみるのが1番だろ!」
「僕、普段はピアノだから足引っ張っちゃうかもだけど…」
不安そうに刹那くんが答える。
あ、かなの強引なところにはもう慣れっこってやつか。
私も観念して、
「ちなみになにやるの?全員できる曲とかあるの?」
「これならできるだろ!」
スコアを見せながらしゃべる、かな。
確かに有名な曲だしバンド好きなら一度はやったことのある曲だけど、刹那くんは大丈夫なのかな?
「あ、ちなみに刹那は楽譜見れば大抵の曲弾けるから心配ないぜ?」
なぜかかなが誇らしげに言う。
「まあ、このくらいのやつならすぐに合わせられると思うよ。」
余裕そうな表情の刹那くん。
「わー、懐かしい!俺これ中学の時に学祭でやったわ。」
久保田蛍とかいう子も楽しみ!って顔をしながらドラムの位置につく。
マジでぶっつけ本番ってやつですか。
「かな、ギタボなんてやったことあるの?」
「とも、それは俺を舐めすぎ。楽勝よ!」
仕方なく私もベースをアンプに繋ぐ。
まあ、歌わなくていいし楽か。
でも初めてで本当にうまくいくなんて思わないけど。
「ともの準備もできたし、はじめるぞー!」
かなの掛け声の後に久保田蛍くんが、ワン、ツー、とコールをかける。
曲が始まる。
始まった途端、世界が変わった。
初めて合わせたとは思えないくらいマッチしてる。
みんなそれなりの技量があるからなせる技だと思う。
かなが歌いだす。
少しキーをはずしたがごまかせる程度。
刹那くんのキーボードも案定している。
ドラムが少し早足になり気味だけど心地いい。
素直に楽しいと思った。
曲が終わってみんなが盛り上がる。
「な?言ったろ?」
誇らしげなかなに素直に
「最高!楽しかった!」
と伝える。
それに満足した、かな。
学校の部活とはまた違った新しい世界だった。
新しい音楽だった。
すごく楽しかったと自分でも驚いていた。
「答えはもう出ただろ?」
「うん!バンド組もう!!」
それが私たちの始まりだった。