虚言の魔導師と美術館
□目が覚めると
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「オイオイオイオイ、冗談じゃないヨォ…」
なぜか足元に転がっていたシア姉のお土産を抱えながら、道の隅っこでうずくまる。
たまたま見かけたありんこに話しかけても自己紹介と自分の絵がなんたらって話しかしないし、先に進めそうな通路には、「はしに ちゅうい」とか、嫌〜な感じのする張り紙がしてあるし…
しかも扉の先は穴ボコって、ホントにココ、どういう場所なんだヨォ…
「あの…」
「うるさいナァ。チョット黙っててヨォ。考え中なんだかr…」
「……」
「…………」
「…………?」
え、ちょ、誰この子。
ブラウンの髪の、ちょっといいとこ育ちっぽい、赤い瞳が印象的な女の子。
手には、1輪の赤い薔薇を持っている。
「あ、あの…」
突然の登場に目を点にしていると、気まずくなってきたのか、女の子の方から話しかけてきた。
「ふぇ!?な、何!?」
おっと、変な声が。
「あなたも、美術館にいた人ですか?」
「ぼ、ボク?」
「うん」
美術館って…
「ココが美術館なんじゃナイノ?」
「たぶんそうだけど、そうじゃないんです」
「エーット、つまり…?」
さっきから言ってることが訳が分からない。
絵が掛けてあったり注意書きのようなものがあったりするところから見るに、たぶんここは美術館で合ってるハズ。
キット、しゃべるアリだって展示品か何かなんだろう。
で、この子が言うには、ここはたぶん美術館だけど美術館じゃない…?
「わたし、美術館にいたんですけど、急に電気が消えて、そしたら誰もいなくなっちゃったんです」
頭をひねるボクを見かねてか、少女はどうやってここに来たかを説明し始めた。
誰もいなくなった美術館でさまよっていたら、海のような絵の中に足跡が続いていたらしく、思い切って踏み込んでみたところ、このよくわからない場所に来てしまったらしい。
「…で、出口を探して移動してたら、ボクを見つけた、と」
「はい」
ナルホドネェ、と腕を組む。
ココがどこなのかはまったくもってわからなかったケド、この子が随分と不安がっていることはよくわかった。
「じゃ、いっしょに行ク?」
「!…いいんですか?」
「イイも何も、困ったトキはお互いサマデショ?」
我ながらオヒトヨシだとは思う。
でも、ボクだって早く帰りたいし。それに、1人よりも2人って、よく言うデショ?
「ありがとうございます!」
「フフッ!イイってイイって。あ、ボクはマホロア。キミは?」
「イヴです。IBって書いて、イヴ」
「ヘェ、そのつづりだと、どっちかっていうと“イブ”って感じがするネ。…じゃ、ヨロシクね、イブ!」
「“イヴ”、ですよ…?」
「イイじゃん、ソッチのが言いやすいし」
「でも、ママは“イヴ”って呼b…」
「ママはママ、ボクはボク!つづり的にはコッチのが合ってるんダカラ、問題ナシ‼」
「えー…」
「あ、それと、ここからは敬語禁止ネ!これからイッショに行動するワケだし、それにボク、堅っ苦しいのはキライだヨォ」
「は、はい…じゃなくて、うん」
「ヨシヨシ、飲み込みが早くて助かるヨォ」
じゃあ行こうカと、手をつなぐ。
はぐれたらキット大変なことになるコトは、イブの体験談から察知済みだ。
とりあえず足元のアリは無視して、今行けそうなところから探索しよう。
…って、今行けそうなところって、「はしに ちゅうい」のところだけなんだよナァ…
→あとがき