大好きなオレンジ色

□出会い(2)
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亡者から離れるとあれ程廊下の奥に広がっていた濃い霧が薄くなった.やはりあの廊下から出られないのはあの亡者だけの様だ.早く亡者を見つけて帰りたい.

「 … 一つの廃校舎に2人の亡者 … 」

此れ迄に無いケースに戸惑い乍,暫く霧の中を歩き続ける.そして3階に上がった時だった.

「 … っ」

突然の頭痛.そしてボソボソと聞こえてくる声.まるで頭の中に直接呼び掛けられている様なその声は1歩,また1歩と歩く度に大きく成っていく.それは誰かと誰かの会話の様だった.俺は頭痛に耐えながらその会話に耳を傾けた.

『──か───ろ──────』
『────わ──────る─』

微かに何言か聴こえただけだけで,ほぼノイズが掛かった様に聴こえない.3階を暫く徘徊すると,老朽化が1番激しい教室を見つけ,足を踏み入れる.

老朽化が激しいその教室に置かれている机や椅子は不自然な程綺麗に並べられている.その机の1つに17歳位の少女が座って居るのが見えた.長い髪のせいか,顔は良く見る事が出来ない.

「 … おい」

恐らくこの少女があの霧の原因だろうと判断した俺は声を掛けつつ近付いた.するとその脚が無意識に止まり,動く事が出来なくなった.全身の汗が干上がっていく感覚がする.そんな中,微かに見えた少女の口元が不気味に上がり,そのまま少女は音も無く消えていった.

俺は思わず膝をつく.動いていない筈なのに息が上がっていた.ゆっくりと立ち上がると少女が座っていた筈のその机にはズタズタに傷が付けられていた.

息苦しい教室から出ると,霧はすっかり姿を消し,見通しも良く成っていた.俺は来た道を辿り,先程の廊下へと帰った.霧が消えている事に気付いていないのかどうなのか,壁際に座っては何か考え込んでいた.逃げて居なかった事を内心褒めながら亡者に近付く.

「 … それにしてもさっきの人目つき悪かったな,何様だろ.初対面なのに … もう」

恐らく無意識な1人事だろう,ぽつりと呟いた亡者の言葉が何だか癇に障った俺はこっそり脅かそうと再び近付いた.

「目つき悪くて悪かったな」
「うひぃっ!?」

妙な声を出し咄嗟に口を抑える亡者を見て俺はつい口角が上がりそうに成ったが,慌てて抑える.気付くと立ち上がった亡者が俺の顔を見ては心配そうな顔をしている.恐らく俺の息が上がっている事を心配しているのだろう.

「な,何かあったんですか … ?」
「あ?あー … ちょっと,な」

空返事を返し乍俺はふと外を見る.それに釣られたのか亡者も外を見た.いつの間にか晴れていた雲の間から差し込む月光が,薄暗い廊下を照らした.俺は横からの視線を感じ,亡者の方を見たが,何も無かった様で,俺は亡者に向かって付いてこい,と合図を送った.
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