大好きなオレンジ色

□出会い(2)
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長い沈黙の中,俺はさらに苛立ちを募らせていた.

( … 何なんだよコイツ.)

遂に我慢の限界に達してしまった俺は,小さく舌打ちをすると,黙り込む亡者の腕を無理矢理掴んでそのまま歩き出した.こうもすれば流石について来るだろ.

「 … ちょ,ちょっ,と!,待ってください!ひ,人違い … では無いでしょうかっ!!」

唐突に意味不明な事を叫び出した亡者に俺は思わず立ち止まる.振り返った俺に酷く怯んだ表情を見せた亡者だったが,一言二言と口を開く.

「私,その,この通り … 生きて,ます,し …… 」

… は? … こいつまさか .
いやまさかこんな奴が居たとは …
面倒だな.…くそ.
俺は暫く考えた後,亡者の腕から手を放し,向き直った.

「 … おい」
「 … は … はい」
「こういうの面倒いんだよ正直. … 他の奴らだったら丁寧に説明する筈だ.でも俺は早く帰って寝たい.」
「 … は,はぁ」
「だから俺は簡潔に言う.…もう死んでんだよお前は」
「 … え」

再び無言になった亡者に深く溜息を漏らすと俺は再び腕を掴み,歩き出す.今度は抵抗しなかったがチラと見えた亡者の表情は思考回路が止まってしまった様に無表情だった.

暫く亡者を連れて長い廊下を歩いたが,一向に出口が見つからない.この亡者が何かしたのだろうか.俺は此の儘歩き続けても拉致があかないと考え,その場に立ち止まる.背後を歩いていた亡者が背中にぶつかったが,とにかく早く帰りたかった俺は,それどころかでは無かった.

「 … お前,ここに何かしたか?」
「い,いえ … ?何も … 」

相変わらず怯えた表情と声で亡者は恐る恐る告げた.コイツでは無いのなら一体誰が.そんな事を思っていると,再び亡者が口を開いた.

「 … あの,実は私,此処から出られない … んです.」
「 … あ?どういう事だよ」
「 分かりません … でももし出られるんだったら私もう此処には留まってません.」

亡者の真剣な表情に俺は信用するしか無くなった.つまりこいつを連れて外に出るにはこの霧の原因を作っている別の亡者を殺さねば成らないという事だ. … 此の亡者を保護し,連れて帰るだけの簡単な任務だった筈だ.何故こんなに面倒な事に成ったんだ.

俺が無意識に呟いた「 … 別の,奴か」と舌打ち混じりの言葉に亡者は首を傾げた.

「別の …… ?」
「チッ …… 面倒だな … 仕方無ぇ,お前は此処で待ってろ」

そう告げた俺は再び亡者の腕から手を放し,「逃げたら殺す」と釘を打ってから背を向けて歩き出した.
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