+ Short Story +
□お嫁さん
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『あの…木村さん』
男の俺に息を切らさずついてくる理恵ちゃんは流石ボクサーだと思った。
「ん?呼んだか?」
チラリ、と相手を見ては走り続ける。
『あ、あの…!す、好きです!私、木村さんの事が好きです!』
理恵ちゃんは俺の服を掴む。俺は驚いて足を止めては相手を見る。
『わ、私と…つ、付き合ってください!』
顔を真っ赤にさせる彼女の頭を優しくポンポン、と撫でてやった。
「勿論、俺で良ければ」
ニッと笑うと無邪気な笑みを向けた彼女は『達也さんがいいんです!』と手を取って走り出した。
「…可愛い奴」
そんな彼女に柔らかく微笑んではロードへ戻った。
-----数ヶ月後、また同じ様な話題になった。
『やっぱり、お花屋さんのお嫁さんになりたいな』
青木は不機嫌そうに言った。
「プロボクサーの嫁は嫌なんだろ?宮田とか鷹村さんとかよぉ」
前回とは違う反応。
『プロボクサーでも、あの人のお嫁さんならいいんです、私は』
大人しく靴紐を結ぶ俺を他所に大きくその場がザワついた。
「な、何だと!?まさか理恵ちゃんに彼氏が出来たのか!?」
「コラ!フザケとらんと練習せんか!」
会長の大きな怒鳴り声がジムに響く。
「理恵、ロードワーク行こうぜ」
『あ!行きます!ちょっ、待ってってば!達也さ〜ん!』
そのやり取りを見た皆は「木村ーー!」と怒鳴る声がジムから聞こえた。
-----外…
「皆に知られて良かったのか?」
横目で彼女を見ながら走る。
『いいんです。いつか私も木村になるから』
-----俺と彼女はニッコリと笑いあった。
END