のーまる
□部下の心、上司知らず。
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江戸の町をブラブラと歩いていた坂本は人ごみの中に一人の女性を見つけた。サングラス越しからでも、見間違うはずのない女性を。
「陸奥?」
そして彼女が一人で歩いているわけではないことに気づく。
「あれは…」
彼女の隣を歩いていたのは、見覚えのある男だった。
遡ること数日、商談の為に坂本率いるカンパニーが地球へ向かうことになった。会議が一通り済んだ後、陸奥が坂本に声をかけた。
「頭、地球に何日おるつもりじゃ?」
「そうじゃな…何日と言わず、何週間。いや、何ヶ月とおりたいのぉ。…おりょうちゃんの処に」
「おんしは…真面目に答えい。何日じゃ?」
「今日の陸奥はちと、穏やかじゃのぉ。なんじゃ? わしに頼みたいことでもあるがか?」
「…暇をもらいたいんじゃ。一日、いや半日でも良か」
陸奥が休暇を求めるのは珍しい。彼女は日頃よく働く。否、彼女無くしてこのカンパニーは成立しないだろう。
「よっしゃ、陸奥まっこと働きもんじゃき、わしから御褒美じゃ。商談の翌日、丸一日地球で羽ば伸ばせ」
「恩に着るぜよ」
彼女は微かな笑みを残し、持ち場へ戻った。