禁じられた遊び

□禁じられた遊び2 「スズキ」
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 先ず、彼に面会することになった。
暖かなセラピールーム、まるで小さな温室のように、緑が囲んでいる。柔らかな太陽の光が天窓から差していた。小さな丸いテーブル。チェス盤が置かれ、彼は、にらんでいた。いや、もて遊んでいる。ゲームを進めていたが、一瞬でバラし、テーブルの上や下に駒を投げ出した。彼は唇を噛む。
やっと、顔をあげ私を見つめた。私は、しゃがみ目の高さを同じようにして彼を見つめた。
「僕はどんなに頑張っても、無駄なんだ!」
「…チェスのライディグ、良かったよ。君が良ければ、お手合せしてもらえるかな?」
私は、最後のライディグを正確に戻した。彼は、その様子を見つめている。
「僕がチェスに勝ったら、自由にしてくれる?」
「自由って?」
「…」
「一人では、まだ生きていけない。私は戸籍上、唯一の君に対し責任があるし。」
「あなたも、同類?」
彼は、紅い舌を覗かせ、私を見つめながら、私の指を含もうとした。背筋に戦慄が走る。含む前に、彼は、動きを止め、私の反応を冷ややかに見ていた。私は、ゆっくり彼を刺激しないように自分の手を戻した。顔は赤くなって動悸がする。
これが禁じられた遊び。
被虐児は状況を再現する。さらに相手が何処まで耐えられるか試す。リミテッドテストだ。
彼に会う前に、カウンセラーにレクチャーを受けたものの、実際、動揺してしまった。
一呼吸し、カウンセラーに言われたように、会話を試みた。間に池あって、そこに言葉を入れるようにする。
「チェスは、ゲームだ。自分の力を出しあう、それが全てだと思う。名誉が与えられる。何かを賭けるのでなく、ゲームすることに価値があると思うよ。」
彼は、少し考えていた。「さあ、ゲームを楽しむかい?」
「…うん、するよ…」
ゲームは、私が勝った。これは、経験として強い相手とゲームをすることが多いためで、彼の実力では無いだろう。しかし、満足した顔を見せていた。
「面白かったよ。」
「…僕も面白かった。負けたのは初めてだけど。」
「そう、名誉を私はいただいたかな?」
「そうだね。」
彼は、笑いこそしなかったが、最初の緊張感は無かった。
「…本題に入ってもいいかな?」
彼は、ちょっと身構え、きつい目で私を見た。
「君は、選ぶことができる。ただし、未成年だから、一人で全く自由に生きるのは、難しいと思う。アメリカに残り里親制度を利用する。また、私を後見人にして、日本で暮らしてもいい。自由に生きられるまで、学ぶ間でいいと思う。」
「…僕と暮らすことで、あなたには、何か、メリットがあるの?」
「少なくとも、一人でチェスをしなくていい。」
彼は、初めて少し笑った。そして、チェスのクイーンを持ち上げて、顔を曇らせた。
「Mamy…彼女は、あの人を好きだった。僕より好きで、僕をあの人に差し出したのだ。利用したんだ。
あなたも、僕が目的なのでしょう?」
クイーンを床に落とした。唇を噛み、クイーンを睨み付けた。
私は、彼を抱きしめて話した。
「お母さんが許せないんだね。私は、お母さんを良く知らない。同じ人は、二人といないよ。私は、お母さんとも、お母さんの結婚した人とも違うよ。」
彼は、静かに聞いていた。彼の目を見て、私は話し続けた。
「君は、私の事業の片腕に成れる!君の能力に、投資したいね。」
「ふーん、僕には、名誉が来るって?」
そして、チェスのライディングを見つめて、答えた。
「僕はあなたと行くよ。」
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