禁じられた遊び

□禁じられた遊び Book
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BOOK

俺が、彼の話を聞いたのは、何時だったろうか。
スズキのブレイン。
スズキの秘蔵っ子。
名前も素性も不明、情報システムを駆使する天才。
尾鰭は勿論、あるだろう。
まあ、俺は名前も名乗ってこそと思っているから、
別に興味はなかった。

別に、俺以外が、どうしてようが、興味は持っていなかった。
誰かに、怒っている訳でも、自分を呪っている訳でもなかった。
自分って、冷めた奴だって、思っていた。

ドジって、院に来たのは冬の始めだった。そして、彼に出会った。


新入りに視線が集まるのは、何時もだった。その日は、一層騒がしかった。
白い肌が透き通り、項が艶めいている。
ひそひそと、飛びかう中で、真っ直ぐに歩いて行く。
「…スズキ…」
「まさか、女?」
「…ブレイン…獣…」
俺は、ボーッと見ていたらしい。普段無口なセイが口を開く。
「あまり、見ていると、引き込まれるぞ。」
「あ、俺そんなに見ていたかぁ?」
「…」
セイは、答えず眼を閉じた。こうなると、もう何を聞いても、奴は答えない。俺は、ヒソヒソと話している奴等を、眺め回した。
その声も、彼が独房のドアが閉まる音と共に鳴り止んだ。
逆にその静けさに、嫌な感覚がわいてきた。
次に、彼が部屋から出てくると、ギャラリーの声はさらに、大きくなっていた。
「スズキのブレイン…」
「まだ、ガキだ」
「色白、べっぴん」
「あいつを…争って…ショウが…」
ギャラリーの関心を嘲るように、きつい目で、歩いて行く。
「見た目に騙されると、痛い目を見るぞ。」
また、セイが口を開く。
「スズキのブレインって、聞こえた。
ガキじゃあないか?
なんか、知ってんのか?」
「…」
黙ったまま、彼が消えた方向を見ていた。
「肝心なことは、言わないんだ?」
「口は、災いのモトだから。」
俺も、セイが見る方向に目を向けた。俺と変わらないガキが、ブレインって…。あの、きつい目で、何を見ていたというのだろう?
「お前、他人に関心ないはずでは?」
いつの間にか、セイは俺を見ていた。
「え?」
セイは黙って目を閉じた。俺は、もう一度、彼が消えた方向を見ていた。
スズキのブレイン
しかも、ショウ?
若手実業家について、変な話を聞いている…。


次の日から、プログラムに参加していた。昨日のギンギンとした様子は無く、集団にまぎれていた。
あまりに、まぎれていたのでニアミスを起こした。 俺は、いつもと同じように本を漁っていた。分厚い本を持って続きの巻を探しているやつがいた。
「あっ、その本、これだよ。」 と、声をかけた。
彼だった。
俺を見上げて、カッーと気が光った。
一瞬で、さっきまでの彼に戻った。色の白さ、まつ毛が影を作る、唇の紅さ。
俺、真っ赤になってるかもしれない。
「あ、どうも」
彼が本を受け取る時、わずかに手が触れた。
「これは、罠か?」
俺は、カッーとさらに真っ赤になった。
「あのね、俺がもともと読んでたんだよ!何、勘ぐってんのさ!」
「…家族構成の変化に寄る関係性の変化は?」
「?…夫婦に子供ができると、父子、母子、父母の3つの関係になる。さらに二人の子になると、父子、母子、子と子が増え、6つの関係が相互に絡み36の関係性が生まれ…」
俺は延々に話すと、彼も質問を交え話した。社会学から哲学と、広がった。
「何、また、話してんの?」
ニヤニヤしながら、眼鏡の男が肩を叩いた。
「こいつ、本の虫だから、いつまでも、しゃべっているぜ。」
「あ、ごめんなさい。僕の勘違いだ。
すみません。」
彼は、うれしそうに話した。
「僕、ずっと理数系だったから、社会学とか哲学って、面白いなあって」
「ふーん、君も本の虫かい」
「じゃあ、君は?」
「俺、Number」
「数学じゃあ無いんだ?」「高尚なもんじゃないね。」
彼は、クスッと笑った。
「また、喋ろう。俺は、」「あ、ここで、名前って、意味ないから、いいよ。」彼は、下を向いた。
「俺は、君に、君呼ばわりされたくないねぇ」
眼鏡の奥でニヤニヤした。俺が始めに言った。
「じゃ、俺は、Bookで」
「俺、Number、なんか、番号で呼ばれると、変わらないね!」
「さて、君は、SOPHIA、ソフィア!」
「哲学なんて。と、ソフィアって、女名だよ!」
彼は、真っ赤になった。
「あはは、名前に一番、こだわっているぜ!ぴったりだし。」
「おい、いじるなよ、大人げないね。
じゃ、哲学のテツ。バリバリの男名だよ。」
「分かった。」まだ、真っ赤だった。
結局、俺達のソフィアカンパニーの始まりだった。
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