禁じられた遊び

□禁じられた遊び ショウ DOLL
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ショウが彼に出会ってから、頻繁に面会を要求した。スズキは勿論、許さなかった。ショウに限った訳でなく、彼との面会は制限されている。しかし、父譲りの傲慢なショウがそのままで済む訳も無い。1月経つと要求が減っていた。

彼は、この時を待っていたのだ。セキュリティを徹底的に洗う。要求が減った日から、不正アクセスが見つけた。スズキの私邸を中心にアクセスしている。あいつだ。彼は、冷たく微笑み、プログラムを作り変えていった。あいつは、僕を見ているの?僕は、もう、君を見つけたよ。

チェスタが訪れた。彼の友人で、チェスタの滞在中は、子供の頃からチェスタの部屋で過ごしている。彼のゲームに陥ることが無く、彼の理解者だ。彼はベッドに潜り込むと、チェスタにキスをした。いつもの子供のキスではない。チェスタは、熱を帯び唇を震わす彼に、いくつか、言葉をかけ、優しく、彼をあやす。彼を落ち着かせ、腕の中で眠らせた。

音声の無い画面に、ショウは、繰り返し見ている。
あの手、絡めた指、男の髪に絡める。
あの透けた肌、男の指に震える。
あの紅い唇に、男が触れている…
無性に、暴力的な感情が沸き起こる。ショウは、勢い良く立ち上がり、椅子が倒れた。音を聞いた、エンジニアが駆け寄るが、「作業を続けろ!」と、怒鳴り付けた。全てのアクセスが無効となり、エンジニア、プログラマーがハッキングを試みたが成果が見られない。何故だ?2週間前は、容易く侵入出来たじゃないか?
ソファーに、どっかりと座り、ショウは、ある考えが浮かぶ。ブレインか?全て罠だというのか?
お前がそのつもりなら、狩りに行く、誘ったのは、お前だから。

ブレインは、モニターを見つめている。ショウは、ファイアホールを崩せずじまい、アクセスをしていない。こちらの罠に、気づいているはず。チェスタと違い、僕のテストとゲームに勝てるはずも無い。どうする?
「DOLL」
彼は、つぶやいた。画面には、ショウが父の事業を運営すべき、話し合いをしている。他のモニターは、ショウの私室からガールフレンドに至るまでうめ尽くされた。あの画像を送ってからガールフレンドに、ショウは会っていなかった。来週、ショウは渡米する。大学とアメリカの事業を運営するためだ。渡米祝いに何を贈ろうか。

ショウは渡米を控え準備しながら、機会を伺っていた。見ているのだろう、ブレイン?アメリカに行くまで、俺が何もできないって、思っているはず。もう、お前を見つけているよ。
お荷物が届きましたよ。
誰から?
開けると、ガラスのチェス盤が入っている。ブレインか?ゲームはまだ始まっていないと言うのか。
ショウは、カバンを取り出して車を出させた。

ブレインは、温室で静かに立っていた。金とブルーの花は、既に季節を終えていた。白一色の花々の中で、小さな青い蝶が舞い時を刻んだ。
黒光りする大きな車がスムーズに止まった。ショウが降りてくる。温室の中のブレインを見つけて立ち止まる。ショウは、ブレインを見つめる。ガラスごしでも分かる紅い唇、白い肌。ゆっくりショウは、カバンの中から取り出した。
白い肌、紅い唇、長い髪の人形。スーパーDOLLと呼ばれる美しい人形。黒い瞳も、ブレインにそっくりそのまま似ている。そして、白い上等のレースのワンピース!
そう、ブレインが10歳、チェスタとイギリスに極秘で行ったそのままの姿だった。
ショウは、温室の中に聞こえないと知りつつ言う。「ブレイン、ゲームはこれからだ。アメリカでも、お前を追い詰めるよ!あはは!」
ブレインは、ショウに向かいまるでドレスの裾をつかむように、お辞儀をした。イギリスでしたように。
ショウは、なおも笑い続け、黒光りする大きな車に消えて行った。

ブレインのルーム。イギリスでチェスタと写る記事、スーパーDOLLの資料。
「贈り物は、気に入ったようだね。」
ブレインは、冷たく微笑み、デリートキーを押した。



ショウは、アメリカに渡った大学でレポートを取り組み、事業を展開していた。
今日は、教授にアポイントをとった。数字者の教授が探している人に違いなかった。
部屋に入ると、多くの書物と共に、ポートレートが飾られていた。多くの写真にひときわ、小さい学生が写っていた。大きな瞳、女子大生より白い肌、笑顔がかわいらしい。
「Mr.スガワラ、あなたが問い合わせた論文は、その写真の少年ですよ。」
教授は、にこやかにショウを見ていた。
「はじめまして、Profether.ショウ、スガワラです。ショウで、結構です。お忙しい中、お時間をいただきありがとうございます。」握手をして、ソファーを勧められた。
「彼は、当時8歳でした。修士論文を私が指導しました。彼は、今、あなたの国、日本にいますので、質問は、日本に帰った際、されると良いでしょう。」
「ありがとうございます。そうします。」
ショウは、努めて、はじめて知ってよう、装った。
「彼は、どのような方ですか?」
「そうだね。明るく年相応の子供だった。お母様が結婚されてからは、ふさいでいたが。…」
何か、歯切れの悪い言い方だった。ショウは、気にせず、続けた。
「彼ほどの才能なら博士課程に進むと思うのですが。」
「彼が日本に行くことを希望していたからね。」
「引き続き、指導されていましたね。」
「ええ、そうですが。
ショウ、あなたは、論文で無く、彼について、調べにいらしたのですか?」
「お気を悪くされましたなら、謝ります。その通りです。」
ショウは、指摘され正直に答えた。調べたことの確認するための行動だった。傲慢な性質を隠そうともしなかった。教授は、気を悪くするどころか、納得した表情をした。
「彼から、彼を訪ねる人が来たら渡して欲しいと、手紙を預かっていました。」 彼は、デスクに戻り、封筒を持ってきた。封がされたままだった。
黙ってショウは受け取った。
「確かにお渡ししました。」
「…ありがとうございます。失礼します。」
軽く、儀礼的に握手を済ませ、ショウは部屋を出て行った。
迎えの車に乗り込んだ。電子メールの時代に、わざわざ封蝋で封印していた。
親愛なるスガワラJr.へ

僕を探していますね。
僕は見つかりましたか?
僕は日本にいるのに、過去の僕を探しているのですか。
過去の僕に興味があるのですか?
僕を知りたいのですか?

僕を知りたいなら、次の人に会って見てはどうでしょうか?


大学の児童心理学者の名前が書かれていた。
先手を打って、手紙を差し出した。そこに行けと、誘っている。
何を考えている?ブレイン。挑戦は受けて立つよ!
電話を取り出した。



大学病院のオフィスにその心理学者がいた。
訪ねると、しぶしぶ、面会を許可した。
オフィスに書類が積まれ、数々の色褪せた証書が壁にかかれ塵がかかっていた。多くのビデオテープが保管されていた。クライアントの面接記録だろうか。
心理学者は、ジロッとショウを見た。握手もせず、椅子にどんと、腰掛けた。ショウも空いてる椅子に座った。稀に、病理的な人々と接するうちに、自らも病理に犯される場合がある。その心理学者は、その特徴をもっていた。
「彼の記録は、全て、イトウが日本に持ち帰った。どのみち、守秘義務があるから、私から、話すことは何もないね。」
眼はショウを向いているが、ショウを見てはいなかった。
「彼から貴方に会うよう勧められたのですが。」
初めてショウを見つめた。次第に、笑い始めた。背筋に冷たい感覚を感じた。
「君は、両親がいる。」
「?ええ、そうです?」
「張りのある声だ。両親に期待され、充分に応えている。大きな手、腕、何かスポーツに、興じ、力強い。傲慢な性質が言葉の端はしに、聞こえる。」
先程迄どんよりした眼を爛々に光らせている。
「君は、ずいぶん彼に、気にいられたね。
しかし、彼は君のものには、ならない。
決して、君には、手に入らないね。
味わったことの無い、情動と絶望が、待っている。あはは、ははは!」
こらえ切れずに、高笑いして、立ち上がった。
ショウには、ただ一言だけが、渦巻いていく。
「手に入らないね。」
スズキのブレイン。大事にガラスケースに隠された人形。スズキの弱点。
弱点をついて、一気に潰す。和解等、手ぬるい。
俺が手に要れない?
ショウの憮然とした表情に気づいて、笑うことを押さえ言った。
「禁じられた遊びだ。ふふん、帰りたまえ、そして、最高のゲームを味わいなさい。」
ショウは、心理学者に追いたてられ、部屋から出された。


日本のブレインのコンピュータルーム。
2つのメールが、届いてた。教授からのメールは日付を見ただけで開きもしなかった。もう一つのメールを開いた。

親愛なる君へ

君の獲物が訪ねてきたよ。君のもっとも嫌いな獲物だ。
確実に、あおっておいたよ。
しかし彼は、危険なタイプだ。
君が、命をかける値打ちも無い。
君は君の好きなようにすればいい。
願わくは、彼に君がズタズタにされることを祈るよ。

君の最初の遊び相手より。


「Thank you。」と、返信した。ブレインは、冷たく微笑んだ。

そう、僕の獲物…
僕がスズキの獣なら、
あいつは、スガワラのDOLLさ。
自分の力で動いているつもりのDOLL。
両親の愛を当たり前に、
両腕の力を誇示し、
愚かなDOLL。
来月に、帰国する。
「フフ…」
不意に感情が騒めいた。危険なタイプ
「ズタズタにされるのを祈るよ。」
ドクター、貴方のプレイセラピーが失敗して、僕を恨んでいる?
僕は、少しは、コントロールを身につけたよ。
ただ、プレイヤー迄は、どうかな?
煽ったのは、僕のためではないね。ドクター自分のためだね…
「僕は僕の思うようにするよ。誰も邪魔はさせないよ」



ブレインは、温室で捕まった。数人の男達に抱き抱えられた。
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