フラワーアレンジメントの部屋デスノート月L

□ビン★チャラ:鏡仕立てのドラマ*
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「キラ役の夜神月です。よろしくお願いします。」
テレビドラマの制作発表記者会見で、カメラのフラッシュを浴びる。ニッコリと爽やかな笑顔を向けた。
会場には、ミサ、L、魅上、松田と出演者が並んでいた。注目されている若手俳優達だ。しかも、主役がアイドル歌手を起用することから、記者会見の興味を誘った。
「爽やかなイメージの夜神さんですが、初ドラマ主演、しかも悪役に挑戦しますが。」
「ハイ、確かにキラは、大量殺人犯人かもしれません。世の中をかえたいと、もがき、自分の信念を貫こうとする姿は、共感しますので、自分なりにキラ像を演じたいと思います。」
フラッシュを受け、真摯に答えていた。








「L!」
記者会見後、呼び止められる。
「魅上さん!よろしくお願いします。」
「僕は第2部からだからね。Lと絡めないから残念だよ。」
「そうですよね。私は第1部だけですから。」
独特の上目遣い、通る声で答えた。Lの空気は、何処か人を引き寄せる。
「台本だと、“竜崎”は魅力的だからね。僕に変わって、視聴率、下がったなんて、言わせないよう頑張らないと。」
「魅上さん。謙遜しないで下さいよ。それから、ニア、メロの二人、よろしくお願いします。」
「ああ、分かった。」
ニッコリと涼やかな笑顔を向け、部屋を出て行った。
二人が話し終わるのを待っていたのだろう。月がLに、駆け寄った。
どうも苦手意識が働く。綺麗な笑顔の下に隠しているのか得体の知れないものを感じながら、それを気付かれないように振り返った。
「夜神くん。」
「Lさん。月でいいですよ。今から、時間取れますか?本の解釈で聞きたいことがあるんですが。」
「月くん。じゃあ、私のことは竜崎でもLでも、いいですよ。悪いですが、次の仕事があります。また、次にしていただけますか?」
できるだけ自然に話したが、月が、視線を一瞬光らせたのを感じた。
気付かれているのか?
「L!スタジオ、一瞬に行こう!」
メロがパタパタ、走り寄った。
「関係者以外、入ったらダメですよ。」
Lは、困りながらもこの場から立ち去る機会を得てほっとした。
「俺、第2部から出るから関係者だよ!」
「そうですよね!メロくん。よろしく!」
月が手を差し出したが、握手せずに、Lの腕に絡み付いた。
「敵には、握手しませんよ。しかも、Lを殺すキラとは。」
「こら、目上の人に失礼ですよ!きちんと挨拶して下さいね。」
Lに促され仕方なく握手すると、直ぐ腕をLに戻した。
「じゃあ、月くん。お先に失礼します。」
メロに引っ張られて出て行ったLを見送った。
背の高い細身のうなじに黒髪が散らされる。多国籍混血で白い首筋に、黒い瞳のL。典型的な金髪を揺らし、少年らしい伸びやかな手足のメロ。
「黒と金か。絵になるね。」
「二人でもいいけど、ニアと三人だと、他が霞む位だよ。」
スタッフがヒソヒソと話したが、月はすぐさま、Lとの話し合いを設定するべく、プロデューサーを探していた。
どうしても、Lと話したい。近づきたい。こんなに執着する自分に驚いていた。いや、このドラマに執着している?それとも、Lに?



レザーパンツにロザリオを付けたメロをまじまじとLは見つめた。
「私は、電車に乗りたいのです。」
「乗ろう!地下鉄の入り口あそこだぜ!」
「メロ。あなたは十分美少年ですから、あまり派手ですと、目立ち過ぎますよ。」
奇異な眼で見られるのはかまわなかった。ただ、ファンに見つかり、騒ぎはお越したくない。心配そうに見つめるLを、かえって独占していると刺激されて、メロは、気分が良かった。
「似合わない?」
ニッコリ笑って腕に絡ませた。
「似合いますよ。」
「そう?良かった!俺、気配位、消せるよ!演技比べしよう!」
「仕方ないですね…」
Lはメロの頭をくしゃっと撫でた。
地下鉄のホームに降りて行った。
「二人きりの時は、俺のこと、ミハエルって呼んで。Lも、ファーストネームで呼んでいい?」
どうも、ベビーネームが芸名になったのが不満に持っているようだ。
「ミハエル。…私は、ただのLですよ?」
「知ってる。シリアルナンバーみたいで味気ない。じゃあ、ルカって呼んでいい?」
大それた名前に眼を丸くする。メロは二人だけの秘密を持ちたいのだ。はぁとため息をつく。
「聖人ルカですか?大天使ミカエル。悪魔のルシファかもしれませんよ?」
「ルシファなら、Rだよ!」
「ばれましたか。」
二人でクスクス笑った。記者会見会場で、苦痛を押し殺していたLが笑ったので、メロは嬉しかった。
電車に乗り込み、座席に並んで座ると、二人は黙って気配を消した。対面の窓ガラスに写った自分とメロをボーッと見つめていた。
「大天使、あなたは産みの親に逢いたいですか…?」
静かに話しかけたLを見上げた。
「ルカがいるからいいよ。」
Lの名前は、施設のワイミーが付けた。3人は同じ施設で教育を受けていた。
「…もし、死神の眼があったら、母の付けてくれた名前が見えるのでしょうね…。」
表情を写さない瞳は窓ガラスを見つめている。
「あんたは、Lだよ!世界中に一人の!俺、変なこと言ってごめん。」
「あなたのせいでは無いです。ずっと、引っ掛かっていました。」
メロの頭を撫でた。
「さあ、駅です。スタジオに急ぎますよ。ミハエル。」
笑ったLにメロは頷いた。




朝一番にマネージャーからメールが入る。プロデューサーと出演者と話し合いだった。
月の光らせた眼が浮かぶ。
早いな…。
断る理由もない。承諾のメールを入れた。
午後のスチール撮影の後に、局内で行うと、まもなく返事がきた。
気だるい。
シャワーを浴びた頬はうっすら赤らんでいる。蝋のように白い肌と濡れて黒髪のコントラストが鏡に写った。
同じ白い肌だが健康的な顔色で笑う月が浮かぶ。
そう、幸せな家庭で育まれ、天性の美青年。太陽神のようだ。
死神に不似合いだ。そのギャップが意表をつくのだろう。

何故こんなに、私に執着するのだろう。

ドラマの企画が持ち上がり、配役が決らない前から、夜神月は、Lに接触して来た。映画の試写会に現れ、苺のショートケーキをワンホール、プレゼントされた。熱く、映画の感想を語る月。それよりも、一番のお気に入りのケーキ屋からプレゼントに、引っ掛かりを感じる。公式プロフィールにも、雑誌のインタビューでも、公言したことはなかった。
つまり、彼は“Lを知ってる。もっと知りたい。”そう、いいたいのか。
アイドルとして殺人的なスケジュールのはずだが、舞台挨拶、記者会見会場で、姿を現していた。ニアミスで挨拶を交わす程度だった。
少ない友人が来日した時、友人のホテルでホームパーティーをした時も、魅上の連れで現れたのには、流石に、不機嫌な感情が湧いて来た。
偶然じゃない。意図的だ。ストーカー?嫌、違うだろう。私は元々、友人が少ない。避けているのは、人付き合いが苦手な性分だから。つい、警戒してしまう。
ともかく、共演も決まり、正面から、対峙するしかない。罠を知りつつ、自滅する気は無い。
シャツを被り、髪を流して家を出た。





スチール撮影は既に、月のショットを撮り進んでいた。試し取りのポラロイドを眺め、構図、ポーズの確認をしていた。
「おはようございます。」Lがスタジオ入りすると、宣伝部やプロデューサーが出迎えた。
「おはようございます。早速、始めていいかな?」
「よろしくお願いします。」
メイクを済ませ、カメラの前に立つ。
「ハイ、じゃあ、二人、宿敵って感じて、向かい合って!」
月は、端正な顔で見下ろす。
ああ、記者会見、あの時の眼だ…。
背筋に冷たい感覚が走る。
そう、お前は、キラ、…だ!隠しているものを暴いてしまえ。
不意に、可笑しくなってLは、口元で笑った。
それが分かると、月はかぁっとなって、より瞳を光らせた。手を小刻みに震わせた。
二人ともフラッシュの連続音が続くなか、じっとにらみあった。
「ハイ!二人ともいいよ!次に行こう!」
いくつかのポーズを変えて撮影すると、今度、Lのショットを撮影する。
月がその様子を見ていたがLは、撮影に集中していた。カメラのなかの自分と向き合う。
“天才にして奇人の探偵竜崎”
視線を流して、独特の瞳が開かれる。または半分伏せられ背後に流した。蝋のように白い肌、漆黒の髪を散らし、闇に吸い込まれそうな瞳。
そこには、性別を越えた、存在がいる。
宣伝プロデューサーが生唾を飲み込む。
月も惹き付けられるのを感じた。
Lだ!“竜崎”だ…。
興奮していた。


撮影が終わると会議室に移動した。
出演者とプロデューサー、ディレクターがテーブルを囲む。テーブルには、3話迄の脚本、10話までの草稿が用意された。
出演者と言っても、月とLだけだった。
予想通りだ…。
「僕は、“キラ”は彼一人がなりえたのでない。そう、考えてます。ナポレオンがあの時代に、必然的に現れたように。」
月が熱く語る。Lは、コーヒーのスプーンをいじりながら、ポツリと返答した。
「確かに、彼を“キラ”と名付けたのは、群衆です。しかし、彼を増長させたのは、“竜崎”の関与が大きいと思います。」
視線が集まったのが居ごち悪そうに、小さなため息をついた。
「1話の最後、大詰めの場面だね。」
「3話の盗聴している場面も、いい!1話と3話は同じ脚本家だ。」
テレビドラマは、放送回によって、脚本家も演出家も違っていることは、多い。Lがカチャンとスプーンを置いた。
「ともかく原作者は、読み手に、考える余地を残しています。それが魅力の一つですから、討議するのは、構いませんけど、一つにまとめる必要は、無いと思います。」
Lの言葉にお互い視線を交差させた。
「今は、私が、こう思っても、変わっていくかもしれませんよ。共演者の皆さんや監督さんに刺激されて。」
Lは、ニッコリ笑うと、冷めたコーヒーを一気に飲み干した。白い喉が上下するのがなまめかしい。
「そう言えば、さっき、L、笑ったよ。」
「そう、よかったよ。あれは何故?」
問われてLは、当然のように答えた。
「可笑しくなって。竜崎なら、笑うと思って。」
「つまり?」
Lは、月を見つめた。
「キラなら、分かりますよね?」
月は眼を光らせた。
「ああ、分かるよ“竜崎”。“キラ、お前の考えているのは、お見通しだ”って、挑発したんだ。」
「流石です。」
ニッコリ笑うと、制作者達を見回した。
「この通りです。主役の夜神月くんがしっかり捉えているから、大丈夫ですよ。」
「これから、楽しみだな。」
プロデューサーがポンと肩を叩いた。




スケジュールの確認をして解散となった。会議室を出る時、月がLを呼び止めた。
予想通りだ…。
月はLの腕を掴んだ。
「L…。」
「食事、ですか?」
月は、Lをぐっと引き寄せた。
「分かっているはずだよね…。ずるいよ。僕に最後まで言わせるつもり?」
甘ったるいショートケーキのようだ。月の声、表情…。
すっと手を引っ張りLを駐車場に移動した。


月のマンションは、華やかな外見と違って、堅実的な雰囲気だった。
「このセキュリティなら、誰がいつ入ったか、記録されますよ。密会には、不向きですよ。」
「おしゃべりな口だなぁ。」
月の両手がLの顔を包み、親指で口唇をなぞった。微かに震えた口唇を丁寧に開かせて言う。
「L…。触れたかった。」
開かせた口に舌を差し入れて、キスを貪った。
「…月くん…。」
恋され求められるキスは甘ったるい。
溶ける夢と分かっても、このキスに溺れそうだ…。
「月くん。私を抱くのは、今夜、限りにして下さい。」
まじまじと見つめる。
「やっと、僕の気持ちに答えてくれるんだろう。ここまで来て、逃げるつもり?」
頬にあった月の両手は、Lの白い喉にかかっている。返答次第では、Lを絞め殺す勢いだった。
Lの瞳は真っ直ぐに月を見つめたままだ。
「月くん…今夜、私が断っても、あなたは、諦めない。もっと、公私混同した方法で、私を追うでしょう?ここに、私を連れて来たのだって、危険でしょう?」
Lは、優しく、髪を撫でた。
「今夜の私は、月くんに挙げます。だから、私のことは忘れてくださいね…。」
月は瞳を揺らした。
「じゃあ、今夜、僕を忘れられないようにしてやる。」
激しく貪るようにキスをした。
舌を絡め、息さえ忘れて。
ビリビリとLのシャツを破く。
「ぁ…。」
小さく漏らした声にイジメたくなる。Lの体を抱き寄せ、ベッドルームになだれこんだ。
蝋の肌にピンクの乳首がどんな女性より、扇状的だった。舌先で突くと体を反らし白い喉を晒した。首筋から、花ビラを散らすように、キスマークを付けた。
Lを見つめ、冷たく笑う。
「後を付けられるのは、嫌だろう。」
「ええ、嫌です。」
「うふふ、そうだと思ったよ。」
「分かっているのでしょう?」
月はもう一度笑うと、更に、キスマークを付けた。
「僕のものだ…。」
「ええ、…ぁ…今夜だけは、あなたの…ものです。…ん…。」
片手で乳首をもう片手でL自身を弄ぶ。Lの体がうっすらと、染まり、息が荒くなる。
「ああ、素敵だ…L…。好きだ。愛してる。」
トロンとした眼で見つめ、口唇にキスをした。
「…な…い。」
途切れながら、Lが言おうとしたが、言葉にならなかった。




   違う…愛じゃない。









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