「楓だもん!」オリジナル小説

□楓だもん! 6 サンプルフラワー*
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 8月初め、真昼のジリジリとした光と、アブラゼミのジィジィ鳴く音が、交差していた。楡と柳は楓の家のインターホンを鳴らした。
「楓くんいますか?柳と楡です。」
やや間があって、楓の声がインターホンから聞こえた。
「…楓です。何でしょうか?」
天然の楓と思えない、低く沈んだ声だった。いつもと違う様子に、柳は首を傾げた。
「何って、遊びに行こうよ、楓姫。約束したよね?」
「…そう、約束は守ります…ドアを開けますから、二人とも、中に入ってもらえますか…」
オートロックのズシリと鈍い音が鳴り、ドアが開く。
二人で中に入ると、ドアがジーッと閉まった。
「僕の部屋、奥だから、来てください。」
楓の声が聞こえた方に進む。部屋のドアを開けた。

昼過ぎというのに、薄暗い。楓は床に座っている。甘い香りがきつい。

「…僕…と、遊んで…」

楡には、目の前の光景が理解できなかった。
楓は、上目遣いで見つめる。口唇が濡れて赤い舌を覗かせる。トンボ柄の浴衣は、前がはだけて白い肌にピンクの乳首が見え隠れる。白い脚が浴衣の裾から、顕になっている。甘い声で誘う。
「…遊んでぇ…」
楡の全身が粟だつ。柳は鼻を押さえた。
「うふふ。柳くん、鼻血出ている。かわいい…」
楓が立ち上がり、柳に触れようとすると、柳は腰の力が抜けて、へなへなと崩れた。
甘い香りに意識が遠退く。
「柳、楓!この香りから、逃げよう!」
柳を引っ張り、部屋の外に出ると、意識が戻ってくる。次に楓を引っ張り出し、落ちていたタオルケットを楓に頭からかぶせた。
「楓!からかっているのか!?」
楓に抱く色情を押さえ続けてきた楡は、声を荒げた。
楓はかぶせられたタオルケットの下から、つぶやく。
「だって…榊先生が…あ、あきらめろ、年相当の恋をしろって、…楡くんと。」段々声が大きくなり床に崩れるように座った。
「…待ってていいって、約束したのに!」
正気に返った柳が、おずおずと言う。
「楓姫、ごめん。俺が先生に、引きずらないでくれ、振ってくれって、頼んだんだ。
…楓姫、こんなに、壊れるなんて…。」
「…柳くんも同じだったんだ。」
「えっ?」
「柳くん、僕のこと、分かてるって、信用していたんだ。…でも、柳くんも皆と同じだったんだ。僕が先生を好きなこと、反対だったんだ!」
楓は立ち上がると柳の胸元を掴んで、家の外に追い出した。あの細い体のどこにそんな力があったのか?ドアが閉まり、ロックの音とともに柳の姿と声が消えた。
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