「楓だもん!」オリジナル小説

□楓だもん! 4 輝花
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7月に入ったが、梅雨空が暗く広がっていた。テスト期間も終わり、生徒達は、夏に向けて思い思いに過ごしていた。
放課後、3年生の課外授業に榊を取られ、楓は、面白くなかった。今日、霞は、大学の研究室に見学に出かけた、理子は、チアガール部に頼まれ、練習に参加していた。
生物室に楓とサボテンだけだった。
「ニーディさん!もうぉ!暇!つまんない!」
楓は、机に頭をうつ伏せた。
「えっ?音楽って?」
窓から、ピアノの音が聞こえていた。
「きれい…。」
楓は、廊下に出て音楽室に向かった。

別棟では、吹奏楽部の華やかな演奏が聞こえた。楓が聞いたのと違う。音楽室に近づいた。
「ピアノ?」
音楽室のグランドピアノはひっそりしていた。
「あれ?」
音楽準備室から、メロディが聞こえた。
「オイ!聞くなら中に入れば!」
「はい!えーっと…失礼します。」
男子生徒がピアノを弾いている。長髪を流し、右耳にたくさんのピアスが並んでいる。
普通なら、ひいてしまう度派手な格好だが、霞を見馴れている楓は、遠慮無く入って行った。
「すごく、澄んで、きれいな音ですね!」
楓は、薄茶色の瞳をキラキラさせた。
「音楽室のピアノと、音が違う!」
楓はピアノの側に座り背もたれに寄りかかった。長髪の男子生徒は、クスリと笑うと、違う曲を弾き始めた。幻想的なメロディ…。
「あれ?この曲、僕のミスコンの!」
弾きながら楓を見て笑った。
「お前、霞の所の、天然少年だろ。」
音がキラキラしていた。

樫は、霞と同じ3年生、進学校に来たのに、音大を目指す変わり種だ。
準備室のピアノは、澄んだ音で、音の粒がこぼれてくるようだった。
「ミスコンは、悪かったな。」
「えっ?なぜ、謝るんですか?それに、本当に霞先輩の友達ですか?先輩は、謝るなんて、見たこと無いもん。」
「お前…。霞は、謝らないが、ありがとうを言う、珍しい男だぞ。」
樫はクスクス笑った。
「ミスコンは、シンセサイザーを使ったが、このピアノの方が、お前に、合っていたな。」
「ううん。シンセサイザーも素敵だったもん。確かにこのピアノ、素敵ですね。」
「お前、珍しいな。違いがわかるなんて。」
「うーん、上手く言えないけど、耳って言うより、皮膚?肌?に響くみたい。
あの、僕、お前じゃないです。天然少年でも、失神少年でもいいですけど。」
「聴覚少年」
「えっ?…うん!やっぱり霞先輩の友達ですね!」
クスクス笑って、違う曲を弾き始めた。
楓はとにかく心地良くて樫が弾いている間、側に座っていた。うっとりして、瞳を半分閉じまつ毛の影。夢見ているみたい…
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