「楓だもん!」オリジナル小説

□楓だもん!2 花とさくらんぼ
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「理子ちゃん、何処に行きたい?」
楓は、理子と一緒に下校しながら、話しかけた。
「えーとね!理子、行きたいとこ、いっぱいあるの。」
理子は、楓の腕にぶらさがった。
「理子ちゃん、僕、体って一つしかないよ?一ヶ所しか行けないよ?」
楓は真面目に答えた。
「フウくん、天然!そこも好き!」
「天然?」
首をかしげた。
「あっ!理子ちゃん、僕、理子ちゃんの桜、見たいな。」
「じゃあ、理子ん家、行こう!」
楓は、ニコニコ笑う。
桜は、緑の葉っぱを青々と茂らせていた。楓を見つけ、身を踊らせたみたいに風を受けていた。
幹に手を当て見上げた。
「元気で良かったね。理子ちゃん、見て!さくらんぼ!」
「うん!もう少しで食べられるね。桜、頑張り過ぎかなあ。」
「桜、理子ちゃんが大好きだからね。」
楓は、桜を見上げたままだ。理子は、楓に抱きついた。
「理子は、フウくん、大好き!」
「僕、理子ちゃん、好きだけど、ごめんね。もっと大好きな人いるんだ。」
楓は、理子を見つめた。
「知ってる。でも!」
理子は、楓の真っ正面にぴょんと飛んで、ニッコリ笑う。
「先生は、真面目だからね、振られるよ。理子、あきらめないから。」
楓は、答えず、桜を見上げた。桜がささやいた。
“理子、好き、理子、負けず嫌い”



「先生!おはようございます!」
楓は、授業前に生物室に立ち寄るのが、日課になった。サボテンと話すことと、榊を口説くのが、勿論、目的だ。
「おう!コーヒー、飲むか?」榊は、半分、あきらめていた。
「ううん、ミネラルウォーターがいい。」
生物準備室の冷蔵庫をかってに開けペットボトルを取り出した。
「ねぇ、先生。」
「ああ?」
「人間って、花期、ううん、発情期って何時まで、続くの?」
榊は、コーヒーをぶっと吹き出した。
「楓、どうした?」
「理子ちゃん、僕が好きだ。あきらめないって言うんだもん。」
確かに年中、発情している生物は、かなり少ない。
「理子はなあ、可愛いからなぁ。理子に抱きつかれて、赤くならないって、楓位だ。」
「だって、楓だもん!秋には、多少は赤くなるけど、」
全く、困った子だ。天然に見える発言、考え方は、植物少年?と思わされる。植物の気持ちが分かる以外にも、秘密があるだろうが、これ以上深入りしたら、ヤバイ気がする。
「理子が、あきらめないって言うなら、そうなんだろう。」
「ふーん、僕、先生が大好きなのにね。」
楓はいつのまにか、榊の背中にピッタリ、抱きついた。楓の甘い香りに、クラッとする。
「こら、楓!」
「うふふ。先生、赤い。欲情する?」
「こら、楓!離れろ!桜子さんに言うぞ!」
榊が楓を引き離した。楓はニコニコ笑う。
「理子ちゃんの言う通り、先生って、真面目!」
「当たり前だろう!ほら、教室に行きなさい!」
もう、榊は動悸がするし汗だくだ。
「ハーイ!行ってきます!」
楓はニコニコして生物室を出て行った。


高校は、文化祭の準備で学校全体が浮かれていた。
生物室でも、文化祭の作戦会議をしていた。理子は、やる気満々だ。
「完売して生物部の資金になるよう頑張りましょう!」
ポニーテールをぴょんと跳ねさせた。霞は、やる気なさそうに、机に、うつ伏せた。
「ハイ!理子隊長!」
「フウくん、何ですか?」
「やはり、人集めがポイントです。霞先輩は、結構、ファンが多いそうです。」
「結構じゃない。かなり、多いだ。天然少年。」
うつ伏せのまま答えた。
「そこで、先輩の功績を紹介して、白衣を着せて、ポスターを作りましょう!」
榊も脇から口を挟んだ。
「霞、もう大学のOA入試、決まったんだろう。女王様、受賞したし。」
「そうです。霞先輩は、顔が良いだけでない、頭もいいんです!」
「天然少年!なんか、お前に言われると、ムカつくなあ。」
霞は、やっと、顔を上げた。
「将来有望をえさに、霞先輩に、女生徒集めをお願いします!」
「理子隊長!天然少年も、3年の女子に、人気あるぞ!」
「えー?僕も、えさになるの?」
楓は、鹿に樹皮をかじられたことを思い出して、身震いした。
「お姉様の扱いは、桜子さんで慣れているだろう。」
榊にも言われて楓は引き受けるしかない。
「じゃ、男子は、理子隊長で。」
「おっと!天然少年!聞いたぞ。クラス代表で美少年美少女コンテストに出るって。」霞がニヤリとした。
「理子もクラス代表だよ!フウくん、美少年だよね。」
「理子ちゃん、違うよ。ミス、美少女の方。」
楓はニコニコと言った。
「女子を追い抜きミスコン代表だってな。」
霞がニヤリとした。理子がプーッとむくれた。
「理子、負けないから!フウくんは大好きだけど、勝負は別だから!それから、手加減なんか、要らないから!」
「おいおい、生物部は?」榊は妙なことになったかと、3人を見回した。



「…理子ちゃん、負けず嫌いなんだって。理子ちゃん家の桜が言ってた。」
結局、ポスターを作ることと決め会議を終了した。理子はクラスでミスコンテストの作戦会議をするからと、飛んで行った。生物準備室に楓と榊だけになった。
「そうだ!僕、綺麗な女の子になったら、先生、嬉しい?」
楓はまた、背中にピッタリ張りついた。
「こら、楓。俺を巻き込むな。」
無視して仕事を続けた。
「…人間って、嘘つきだなぁ。先生…ドキドキしているよ!」
榊は、ムッとして楓を体から引き離した。楓は、榊が怒っていることに気づいて、不思議な顔をした。
「どうして、怒っているの?」
「…いいから、帰りなさい。」
有無を言わさず、廊下に楓を追い出した。
楓の足音が小さくなると、はぁと、ため息をついて机に向かった。
嘘つきか…。図星で怒るなんて。
「マズイ、不味すぎだ!」
携帯を取り出した。
「桜子さん。榊です…」
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