「楓だもん!」オリジナル小説

□楓だもん!1 トマトの女王様
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「おい、屋上に誰かいるよ!」
「立ち入り禁止じゃなかった?」
生徒達が騒ぎ出した。下校中の生徒達が校庭に集まり、空を仰いだ。
青空、初夏の光、風をまとい、少年が空を見上げていた。風に髪が揺れ、逆光に煌めいた。
6階建ての校舎の屋上、ポンプ室の上、鉄のハシゴの一番上で。
気持ち良く風を受けている。すっと、すらりと伸びた左手を高く挙げた。
スーと風をきるように燕が飛んだと思ったら、左手に止まった。
彼は燕に微笑む。
幻想的な一枚の絵のようだった。
楓、フウと私の出会いだった。






「君、どうしたのかな?」
生徒指導室で、楓と一年生担任、生徒指導の私、榊と養護教諭が向きあっていた。自殺未遂にしては、楓は、ニコニコ榊を見ていた。
「風を感じてたんです!素敵でした!」
頬を高揚させて瞳をキラキラさせた。薄茶色の大きな瞳だ。
「あなた、風が理由なの?」
穏やかな口調で、養護教諭が聞いた。
「ハイ!僕、あの校舎のてっぺんに立ちたくて、この学校に入りました。」
「何を言っている!危ないじゃないか!心配したんだぞ!」
若い担任は顔を真っ赤にして怒鳴った。
「先生、落ちついて!」
と、楓が言うので、更に担任は赤くなった。
「先生、任せて…」
養護教諭が担任を落ちつかせた。
「あなたの行動は、多くの人を心配させました。そのことは、どう思いますか?」
楓は、初めて、しまったという表情をした。
「僕、大騒ぎになるって思いませんでした。悪かったって、思います。スミマセンでした。」
ドアが開いた。楓の保護者だった。きちんとしたスーツ姿、ストレートロングの黒髪で、母にしては若い。学生カードには、叔母、研究員とあった。
「先生方、スミマセンでした。楓が、大騒ぎしてご迷惑かけました。」
「何も無くて良かった。飛び降りるかと」
「僕、飛ばないよ!飛ばしたことは、あるけど。」
「楓!」
明らかに、彼女はバツが悪そうだった。
「しばらく、生徒指導の私の所に、通ってもらっていただきます。」榊は、二人を見た。
楓は、ニコニコして言った。
「生物学の榊先生!よろしくお願いします。」
彼女は、困った様子で、見ていた。



「もう、楓ったら、派手なことをしないで!また、見つかったら、どうするつもり?」
帰宅途中の車の中でプンプン怒っていた。
「桜子さん、だって、風が素敵だったんだもん。」
はぁーっと、ため息をついた。長い黒髪をさらっと流した。
「…聞いたの?」
「他愛無い、おしゃべりだけだった。」
「そう…。あっ、楓、あの先生!やけに、嬉しそうだったけど。」
「フフ。ばれた?気に入っちゃった!いいじゃない、僕、楓だもん。」
「18未満は、罪なの!先生、逮捕されるわよ!しかも、先生、男性だし」
「えー、人間って不便!つまんない。それに、僕、銀杏じゃないからね。男女関係ないもん。」
「ハイハイ。つまんない人間でございます。」
楓は、ニコニコ笑う。面白いことになりそう。せっかく、この街に帰って来た。愉しまないと。
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