少年Lの事件簿

□アディクション *
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ハイティーンの頃
部屋の入り口には、留守中に誰かが入ったか、分かるよう、いくつか仕掛けました。
特に意味はありませんが…


Lの部屋に入念な仕掛けがされていた。ワタリは、その仕掛けを見るや、深いため息をついた。
「L、あなたのことですから、間違いは無いでしょうが…」

街をうろつく、しかも夜の街を一人でうろつくことは、危険だと、誰だって知ってる。しかし、どんな場所さえ危険か知っていれば、それほどでもない。
別に深い意味等なかった。ただ、飢えた渇きを癒す本能なのか、ハウスを抜け出して徘徊する。
「自分でも不可解な行動です。」ポツリとLは、呟いた。17歳、少年と青年の狭間、白い肌、多国籍の容貌はエキゾチックな雰囲気を醸し出した。
Lを見かけて、指を立てるヤツに、面倒そうに、合図を返した。
あたりの気配をチェックし、素早く裏路地に入った。階段を駆け上がると、ドアの呼び鈴を鳴らした。
ドアの自動ドアが開く音がすると、すっと中に入った。
「よう、篭(ロウ)、そろそろ、くると、思ったよ!」
背の高く明るい髪、目の男が、声をかけた。Lは、ブスッと、答えずに、ロリホップをくわえた。すると、その男は、ロリホップを取り上げ、Lの唇に自分の舌を入れてキスを始めた。Lの目は赤く潤み、その男の舌をしゃぶるように、激しくディープキスに応えた。
その二人の周りに男達が群がって来た。「J!」「J!」「J!」男達が騒ぎ出す。キスの音も激しくなる中で、男はLを無理やり体から引き離した。Lは、火を付けられ火照った体を自分で抱きしめ崩れるように座りこんだ。
「さあ、今夜の相手は、ウチの一番人気の篭だよ!」Jと呼ばれた男は、Lの顎を掴み、男達に顔を見せた。
「白い肌にエキゾチックな目、コックを喜ばせる唇と舌!」男達から喚声が上がる。Jは、Lの顔を見下ろし、冷たく言い放つ。
「篭、待っていろよ。今、最高のロリホップを選んでやるから。」

Lは、ベッドの上でも、座っているように膝を抱えた姿で、横になっていた。唇に指を当てて。Jは、ベッドの端に座り、Lにシーツをかけた。Lは、上目遣いで彼を見上げた。
「J…」
「いい子だ、篭。大丈夫、大切なお前を傷つけるような相手は、選んでいないだろう?」
キスをしようとしたが、Lは、顔を背けた。仕方ないとLに、ロリホップを渡した。受けとると、ロリホップを口にして座り直した。
「J、いつまで続けるのですか?」
「篭。君の二ンフォマニア、セックス依存性は、重症さ。嫌ならきちんと、セラピーを受けるべきだね」Jは、Lの手をとり丁寧に指の間を舌で、なぞった。思わずLは、体を震わせた。
「あぅ、医者は、ンンン、嫌です。J…はぁ…」Jの舌は、Lのピンクの乳首に達していた。
「ほら、こんなにも体は正直だ。君のアディクション、依存症では、私一人で、対処出来ないね。ロリホップを外して…」Lは、キスをして意識がもうろうとなり、Jの要求通りに続ける…。
Lは、この情事が録画されていることも気づいていた。Lが、イヤ、篭が何かに没頭している間は、夜の街に来ない。その間、客に見せて、煽っているのだから。自分のセックスシーンを売る程Jは、肝っ玉が無いようだ。見られてエクスタシーを感じるJは、より激しく、Lの体を貪った。今日は、あまりに興奮したのか、仕切りに鏡を見つめていた。
「いいよ!篭!興奮する自分を見つめろよ!」
ナルシジムを持ち合わせないLが、鏡から目を反らす。Jは、顔を掴み、耳を噛んで、無理やり鏡に向けさせた。「二ンフォマニアの癖に、恥ずかしがる、そこがそそられるよ、篭」
Lを抱き上げ、自分の上で弄ぶ。サーッと、白い肌に赤い斑が走るように染まる。「いいよ!篭。いい…」果ててベッドに倒れこんだ。満足そうに、Jは、Lの髪をかきあげた。
その手をはねのけ、Lは、ロリホップを掴んだ。「そんな口が寂しいなら、キスしてあげるのに。」呆れながら、ロリホップを口にするLを笑った。Lは、ロリホップを無表情に噛んで、言った。
「鏡です。今です。」Lは、体をくるっと回しベッドの下に落ちた。
次の瞬間に、部屋に爆裂と閃光が襲った。Jは、ガラスの欠片を浴びた。「うわーっ!」痛み、叫び声をあげた。バラバラと壁が崩れると建物の外からワイヤーを伝わって武器に身を包んだ男が降りて来た。鏡の向こうは、隠し部屋でビデオカメラ、顧客のリスト、多くの写真が貼られ、爆風に舞っていた。殺された少年達…。建物の中でも、武装した浸入者の音がする。「フロアの右側の壁が隠しドアです。」見ると、篭、イヤ、Lがベッド下から、ジーンズとシャツを面倒そうに着ながら、立ち上がり、ロリホップに話しかけていた。
「証拠品は押さえました。」「ご苦労様でした。」
呆気に見ていたJに近づいて、ガツンと、蹴りを入れた。男と一緒に隠し持っていた銃が、投げ出された。「ヒュー、やるね。」武装した男が口笛を鳴らした。Lはカメラからデータチップを取出し、武装した男に言った。
「終了です。行きましょう。」
「了解!」男は腰からバンドを取出し、Lの腰に付け、Lの体を支えると、一気に建物の下に降下した。

車の助手席に座ったまま、Lはキーボード操作し、レポートしていた。FBI実行武装部隊のスティーブは運転しながら、そのようすを見ていた。ダウンタウンで噂されている篭は、噂の媚態と行動は奇異なところもあるが、普通の青年だった。
「この作戦は、あのLが指揮しているんだろう?」
表情を変えずにL篭は答えた。
「そうらしいですね。」レポートが終わったのか、パソコンをしまい、マシュマロを取出し食べ始めた。
「らしいって、篭、君はLの裏社会での協力者ではないのか?」
「さあ…。」
スティーブは、予測を外し舌打ちした。
「君は、良く殺されなかったよ。犠牲者は、その日のうちに殺されている。」
「…家出少年達は、姿を消しても、気付かれない。逆に、顔が知られ、客が多くつく少年は、商品価値があるから、直ぐには、殺されないでしょう。」
「それだけで?」
「買い物依存、ギャンブル依存ですから。」
「しかし、余りに、危険過ぎる。」
「でしょうね。」
まるで他人事のように話した。
「迎えが来ます。そこの公園で下ろしてください。」
「了解!」
車が公園に近づくとLは、言った。
「それから、ご存知と思いますが、囮、浸入捜査ですから、私は証言出来ませんよ。」
「分かっている。」
「しかし、あなたの任務は、私の説得と追跡ですね。」 スティーブは、答えず口の端をわずかに上げた。車は、ロックされ、助手席から降りることはできない。走る密室だった。
「最新の車は、性能が良すぎます。困ったものですから。」
Lが静かに言った時だった。車は、スティーブの制御を無視して、減速した。「?どうなっている?!」焦るスティーブをよそに、車は、ゆっくり右に曲がり公園と入って行く。公園の入り口に停まり、ドアロックが解除する音と共に、運転席のエアバックが威勢良く膨らみ、スティーブを包んだ。身動きができない? Lは、悠々と車から降りた。まだ、発信機がある!身動き取れずもがきながらスティーブは考えた。まるで、その考えが聞こえたみたいに、Lは、シャツ、ズボンを脱ぎ捨てた。髪にも仕掛けてあるから無駄だ!歯ぎしりしながら、スティーブは、ニヤリとした。
裸のままLが月光の公園を歩くと、公園の散水機が一斉に放水した。月光の白いかすかな虹を歩く。濡れた白い肌が、月光に照らされ、幻想的な世界を作り出した。
スティーブは、任務も忘れ見送っていた。
Lの体が眩しい光に包まれると、上空からヘリコプターが降りたった。Lは、ヘリコプターに乗り込み、夜の空へ、消えて行った。全ての発信機を芝生に残して。


ワタリがバスタオルと新しい着替えを用意すると、バスからLが出て来たところだった。タオルを受けとり、体にかけた。雫がポタポタと流れたままLは、立っていた。
「L、ヘパリンクリームです。」ワタリは、静かな声で告げると、Lの首筋に塗った。
「…今夜の客に記念だと、着けられました。」
Lの首筋に鮮やかにキスマークが残った。ヘパリンは、出血斑の吸収を促進する。
「大丈夫です。直ぐ消えます。」
Lは、一点見つめたまま、ワタリの口が開く前に先手を打って話す。シャツを着るのを手伝いながら、ワタリが言う。
「L…、医師を呼びましょう。」
「ワタリ、私は、大丈夫です。」
やっとLは、ワタリの顔を見つめた。
「出血斑と違います。アディクションは、侮れません。」
「…私は…ただの愛されたい子どもですから。」
いつものソファーにひらりと、飛び乗り、両膝を抱えて座った。
ガラスケースに入った、マカロンを長い指先でつまみ、口に放り込む。
「犯人は、アディクション(嗜癖)の持ち主です。彼の嗜好、依存性から、囮に適していたのが、私だった。それだけですから。」
マカロンを次々と食べながらLは、話した。
「正体不明の素顔を明かさない探偵が、少年で、しかも素顔のまま囮になる。人の目は案外、見えていません。」
篭という少年のフェイクを流し、入念な準備をして、犯人に接触した。
あらゆるアディクションの集まる中で、既に10人を越す少年が殺された。アルコール中毒、ギャンブル依存、セックス依存症、ショッピング依存症、死体愛好…
「内出血で、済みましたが、最悪のパターンは避けられました。私には、潜入捜査は、苦手なようです。
もう、大学に潜入してテニスのフルセットする位で、結構です。」
指を噛みながらLは、ボソッと、呟いた。ワタリは、やっと微笑んだ。
「ワタリ」
「L、なんでしょう?」
「私は、…馬鹿げた行動でしたか?」
「いえ、連続殺人犯人の行動を止めたのです。」
「…そうですか。…」
Lは、無表情のまま指を噛む。
「ワタリ…私に、誰かを愛する、愛されることが来るのでしょうか?」
指を噛み、小さな子どものように、消えゆくように呟いた。
「あなたは、まだ17歳です。きっと、来ます。」
ワタリは、ニッコリと微笑んだ。

Lは、一人、パソコンに向かい考え込んでいた。ふと、カメラに映る画像に自分がいる。白い肌の首筋のキスマークが浮かぶ。
マーキング。自分のものだと、傲慢で危険な客。
そっと、指を舐めた。あいつのキスを覚えている、唇。自分の要求を越えたアディクションに支配され喰いつくされた男。Lの飢餓に真っ先に気づいた。
私は、親の愛等知らない。しかし、あれは、決して愛では無いことは分かっている。
膝を抱え呟いた。
「いつか、愛すること、愛されることがあるのでしょうか…」


東京には、朝が訪れていた。朝御飯の香り、母親が階段を登る音がする。
「ライト!朝よ起きて。お寝坊なんて、珍しいわね!」
「母さん、誰か、泣いていなかった?」目を擦りながら、月はベッドから起き上がった。
「何も、聞こえなかったわよ?夢じゃないかしら?」まだ、伸びきっていない手足、小学生らしい黒く焼けた肌、ボーイソプラノの声で話した。
「高校位のお兄ちゃんだったよ。寂しいって。泣いていた。」
「もう、父さんの捜査の手伝いをするから!」
「事件って、感じより…」月は、顔を赤らめた。
「好きって…」
「まあ、月も好きな人が出来たの。」
「そんなんじゃ無い!」
月は、ピョンとベッドから飛び降りた。
「さあ、早く着替えてね。」
「分かったよ。母さん!」 月は、着替えるためクローゼットを開けた。ふと、窓の外を見つめた。

「…ボクなら、泣かさないのに…」






end

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