少年Lの事件簿

□インビジブルColor、インビジブルBlue
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脳神経には12の神経がある。その多くが、視覚、見るための神経だ。顔面にあるこの2つの眼、ヒトと言う生物は、この視覚からの情報に依存しているとも言える。そして、その視覚に騙され、トラップに陥りやすいとも言えるのだ。


人類学教授は、「色」をテーマにして民俗学の研究をしていた。
その教授の元に捜査協力の要請があったのだ。
FBIの科学捜査室に通された。ボードいっぱいに貼られた事件の資料、白衣とスーツ姿の人々。ただならぬ雰囲気が張りつめていた。一人、黒い帽子を深々と被り黒いトレンチコートを着こんだ男がいる。場違いで時代錯誤的だ。年配の白人、室内に籠もる研究肌の人物かも知れない。そう、教授は見る気もなく考えていた。30歳を過ぎたばかりの女性、日本人、長い真っ直ぐな黒髪をさらりとなびかせていた。
「プロフェッサー、藤田、ようこそ、おいでくださいました。協力感謝します。」
「お役に立てるよう尽力します。指揮官ですか?」
「イイエ、指揮官は、彼です。」
テーブルに案内されると、ノートパソコンが開かれていた。白い機体、白い画面にレタリックのアルファベットが一文字、黒で表示していた。
「L ?」
「はじめまして、Lです。藤田教授、ご足労ありがとうございます。協力して下さることに感謝します。早速ですが、資料を見ていただいて、ご意見をお聞かせ下さいますか?」
抑揚はわずかにあるが、合成音が鳴り響いた。
こうして、藤田とLの捜査が始まった。


視覚は、視神経が伝える刺激を脳で処理し認識する。色となると、さらに複雑なメカニズムが働く。
その一つに色の概念と名前の認識がある。
「つまり、黄色という色の概念の無い文化において、『黄色』は、認識されない、ということですか?」
「その通りです。その例は極端ですが、分かりやすいとも言えます。その逆に、私の母国日本にとって『青』は、様々な概念を示します。」
藤田は、白い画面に向かって話し続けた。レスポンスが良く、聡明であることは伝わってくる。平坦で変化なしの二次限では、討論している感覚が持てない。
「例えば、『はないろ』FlowerColorと言われて、どのような色を思い浮かべますか?」
「そうですね…」
「白、『White』では、ありませんか?」
Lが答える前に藤田は話した。一瞬、画面の向こうから緊張感が伝わるようだ。
「…藤田教授、何故そう考えますか?」
「パソコンの色やシンプルな画面、白黒付けたがる捜査官の志向性。ここまでは、一般的な概念でむしろ、あなたには、当てはまらないでしょう。機械を通しても伝わってくるあなたの声色です。」
「声色ですか?」
「あなたの声色は、強いストレスがかかっています。どんなに抑制し、あなたの強い意思で抑えても伝わるほどの強いストレス。身近な人との死別。白い花です。」
黒づくめの男が、パソコンに近づいていた。終了しようと、パソコンに手をかけた。
「ワタリ!まだです。討議は終わっていません!」
場は静まりかえっていた。
「藤田教授、プロファイルに転身すべきです。お見事です。」
「…私が申し上げたいのは、色は単なる脳が受ける刺激ではない。文化、概念、その人の志向性、体験が含まれると。」
「つまり、記憶ですね。良く分かりました。あなたの意見を基に推理を組み立てて見ます。ありがとうございました。ワタリ。」
「ハイ。では、皆さん、今日はここまでとします。」
ワタリと呼ばれた男は機材をかたつけ、アタッシュケースにしまうと出て行った。人々は遠巻きに藤田を見ていた。「あのLを…」と好奇の目で話している。ただ、画面越しの会話でわかることを伝えただけだ。藤田にとって深い意味合いはない。期待する視線は、居心地の悪さを感じさせるだけだった。ボードいっぱいにある事件の資料を見つめた。
連続殺人現場に残された奇妙な図柄。絵画とも図形ともつかない。図形シンボルならば、説明もつきやすいが程遠い。Picture Paint ?毎回、記されるのだから、メッセージには違いないはずだ。しかし、どう読み取れというのだろう?
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