少年Lの事件簿

□ビタースウィート
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「 花」

春先、街路樹はまだ芽吹かず、静かな佇まいを見せていた。
アーモンドの花畑を目指し、パラパラ、人が集まり出す。ピクニック、バーベキューを用意して、人々の顔は明るい。
花見という習慣、文化はこのコホースの人々には、重要らしい。何も、まだ、寒いこの季節、嬉しそうに、集まるのだから。
「花冷えか。」
「侘さびより、私は食べるほうがいいです。」
まだ少年の彼は、言うより先に、ココアを飲み干した。白いシャツ、ブルージーンズ、膝を抱えしゃがんでいる。
「アーモンドの花は、色も香りも味気ない。子娘みたいだ。どこが良いのか?」スペイン系、背が高い男は、ガムを噛みながら、集団を眺めて言い捨てた。
「そんなセクハラみたいな発言、良くありません。それに、彼らは、アーモンドの花が目当てでは、無いのですから。」
アーモンドだろうとなかろうと、彼にはどうでもいい。あの事が起こるか、どうかだった。
ココアを飲み干した後、マシュマロを食べ始めたパートナーをちらりと見た。集まる人々と同じ黒髪だが、白い肌とエキゾチックな容貌は、純粋な黄色人とも違っていた。少年と青年の狭間にいる彼、長い手足を持て余し、膝を抱えてしゃがんでいる。
アーモンドの薄ピンクの花畑は、日本人がこよなく愛する桜に似ていた。望郷の人々が口コミで、花見に訪れるようなった。小さな子どもの笑い声が聞こえる。
さあーっと、風が吹き過ぎると、彼は、マシュマロを食べる手を止めた。おもむろに立ち上がり、花見の人々の中に走り出した。
「おい?待て!リュウ!」
慌て後を追いかけた。すらりとしたスーツにコートを翻す。左胸の僅かな脹らみに銃を忍ばせた。
リュウは、アーモンドの1本の木に駆け寄った。酔っているのか男がもたれ、うずくまっていた。リュウは、先ほどと同じように膝を抱えて座ると、指を噛んで言った。
「ベール捜査官、鑑識をお願いします。」
やっと追い付いたベールは、男の脈をとろうとしたが、少年は、手でそれをさえぎった。
「危ないと言っておいたはずですよ。」
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