禁じられた遊び

□禁じられた遊び チェスタ
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さて、私が初めて、彼に会ったのは、彼が9歳になるかならないか、だった。日本の友人に請われ、ゲームをすることになった。
叔父スズキが、神妙な様子で言う。
「Mr.彼には、遊びをする癖があるのですが。」
「私のゲーム中にプレイする余裕などないよ」
私が全く取り合わないためスズキは落ち着かない。スズキとは、少年時代から友人だ。感情を押し殺すタイプだが、ソワソワしている姿は珍しい。親になるって、人を変えるのだろうか。
彼に会った。顔に見覚えがある。名前を聞いた時、懐かしい気がしたのは、間違いない。
「はじめまして、Mr.僕は…」
「はじめまして、ジュエルだろう!君は。」
「…?あの僕の名前は…」
「いや、君は、ジュエルだ。そう呼ばれていただろう。」
「確かにそうですが」
「じゃあ、構わないだろう!」
「ハイ…」
私は、片目をつぶる、彼は憮然としていた。
彼が、Mr.に振り回されている?スズキは、目の前の状況を不思議そうに、見ていた。彼は初対面から相手を自分のペースに巻きこむことを得意としているからだ。その彼が相手に振り回されている。
「さて、ゲームをしよう。君を知るにも、私を知るにもいい。このゲームで、引き続きゲームをするか、決めるから。いいかね。」
「ハイ、よろしくお願いします。」
二人とも、真剣な表情に変わった。彼は、全力でぶつかった。ホールド状態になってもあきらめなかったよ。
「チェックメイト!」
「ありがとうございました。」
頬を染めて、最初の警戒は、すっかり消えていた。
「面白いライディングだったよ。これからが、楽しみだね。」
「僕は、合格ですか?」
「勿論だよ。君もその積もりだね。」
彼は、ニッコリ微笑んだ。「さて、私ばかりが、君を好きに呼ぶのは、公平でないね。好きに呼んでいいよ。」
スズキが慌てて口を挟んだ。
「Mr.それは困ります。貴方は、Sirの称号を持っていらっしゃるのですから。」
「いや、いいんだ。ジュエルには、その価値がある!どうかな?」
「ええ、じゃあ、チェスだから、チェスタ!」
「うん!いいね!」私はニッコリ笑い片目をつむった。ジュエルも、満足そうに笑った。
改めて、彼の美しさに気づいた。透き通る肌、黒目がちの眼、黒髪が顔を縁取っていた。


お茶会を楽しんで、そろそろ、出発しようとした時だった。
「チェスタ、見せたいものがあるのですが。いいですか?」
「勿論だよ。ジュエル。」 彼は、工事中の温室にわたしを案内した。ガラス張りの屋根から光が降り注いでいた。彼の長いまつ毛にプリズムを作った。
「これは、完成が楽しみだ。」と、私は見渡した。
「スズキは、僕の温室にするって。」
「まさにジュエリーボックスだね。」
ジュエルは、クスッと笑った。
「チェスタ、お好きな花があればリストに加えたいのですが。」
「こんな立派な所に合うかな?えー、すみれ、日本語でそう呼ばれたと、思うが?」
「…すみれ…」
彼は表情を変えた。きつい眼だった。
「あれ?バイオレット、すみれだと?」
「…貴方は、母を知っていますね。
すみれは、母が好きだった花。
そして、ジュエルと、母が呼んでいました。」
私を真っ直ぐに睨み付けた。少なくとも、母親を懐かしがる眼ではなかった。
「言いたいことがあるなら、はっきり言いなさい!」
彼は、ビクッとしたが、負けずに答えた。
「僕を見棄てた母さまなんか嫌いだ!」
吐き捨てて走り去ろうとした彼を抱き止めた。
「言い放しもダメだよ。相手の応えを聞くんだ!」
彼は、涙を浮かべ、私と向き合った。私は腰を落とし、視線を合わせた。ゆっくり話しかけた。
「確かに、君の母さまに会ったよ。君に似た美しいが、弱い人だった。君のようなきつい眼を持っていたら、もう少し違う生き方もできただろう。彼女は、お腹のなかの君に語りかけていた。「愛しいジュエル、私のジュエル」と。」
彼は涙をこぼした。その涙を拭き取る。彼女のお腹を触っているみたいだ。
「君は君だ。私は、君のライディングが気にいった。私のジュエル、君とチェスを楽しみたいよ。」
「うん!僕もチェスを知りたい。楽しみたいよ。」
「よし、決まりだ!空港迄一緒に行くかい?もっと、チェスの話をしよう!」
「うん!行くよ!」
出発ロビーで私の手を握り、年相当の笑い声を彼はしていた。スズキには、驚きの1日となった。
彼はもうすぐ9歳。スズキ22歳、私が24歳だった。
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