novel

□不条理の証明
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その日の訓練を本部で終えた村上は、暇を持て余していた。防衛任務もない、ランク戦の時期でもない。個人ランク戦は、なんとなくそんな気分じゃなかった。

あの大規模進行から1週間。
同じB級の三雲も先程目覚め、本部は若干の慌しさを見せていた。

「鋼。暇なのか?」

背後からよく聞きなれだ声が自分を呼んだ。ハスキーなこの声の主は、自分の友人でもライバルでも師匠でもあるあの人物しかいない。

「荒船…」

その名を呼べば、キャップの奥の眼光を鋭く光らせてズカスガとこちらへ来た。
今村上がいるのは本部のラウンジで、荒船がここにいるのは別に珍しいことではない。だが、あの大規模進行から1週間、全く会うことがなかったので若干の違和感があったのだ。

「お前、どうせ暇なんだろ?ちょっと俺と付き合え」

なんて強引な、と村上は思った。
暇だったのは事実だが、それを決めつけて自分の都合に合わせようなど。しかしそれが荒船哲次の性格なのだと分かっていたため、さして気にすることなく了承した。





荒船に連れて来られたのは、DVDのレンタルショップだった。
荒船はアクション映画が好き、それは近しいものは皆知っていることで、映画鑑賞に付き合うことも幾度かあった。今日もいつも通り、新作のコーナーで興味をもった作品を選んでくるのだろう。


だが、今回は違った。

「お前・・珍しいな、こういうの観るのか?」
「いんや。けど、たまには悪くないだろ」

それは、最近メディアに大きく取り上げられていた話題のラブストーリーだった。確か、マフィアの幹部の男が捕えた女に惚れこんで共に逃亡するヤツ。
そんなありきたりな作品に荒船が興味を示すのは意外だったが、村上自身もこういったものはあまり観ないため悪くないと思った。




思っていた通り、ごく普通の映画だった。メディア持ち上げが大きいだけの、何の変哲もないラブストーリー。印象に残ったシーンと言えば、あの濃厚なベッドシーンくらいだろう。
やはり海外映画、全年齢対象のくせにラブシーンが濃厚すぎる。

映画に出演していた女優と俳優の絡みに欲情することはないが、健全な男子高校生二人で見るには少しばかり後ろめたいものだった。



荒船はチラリ、と村上の方を見やる。村上のことをどう思っているか、と問われれば友人だとかライバルだとか答えるが、最近それとは別の感情が生まれてきていた。尤も、その感情を隊員や周囲の人間に告げるつもりはさらさらない。
これは、生産性の全くない邪険なものだ。わざわざ言いふらして、蔑みの対象になる必要はない。誰にも言わずにじっと時を待てば、自然とこの想いも消えるだろう。

しかしどうしてか、今日はなぜか村上と一緒に居たかった。
映画鑑賞という理由を持ち出して、しかもいつもは興味すら示さないラブストーリーを選んで二人でソファで観ていた。最近会わなかったことに対する鬱憤が溜まっていたのか、どうなのだろうか。

村上は、依然として画面に目を向けている。エンドロールが流れていた。


「・・荒船?」

ずっと視線を向けられていたことに気付いたのか、ようやく村上が荒船を見た。
 

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