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□詐欺師の夜
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タバコの臭いが移った髪をどうにか早く洗いたくてそそくさとエレベーターを降りてマンションの自分の部屋へと向かう。鍵を開けて家に入ればほんの少しの違和感を覚えた。パンプスを適当に脱ぎ捨てて振り返ればやはりベッドの上にあるはずのない影が暗闇の中静かに佇んでこちらを見据えていた。

「遅かったのう。」
「うん。」

顔を合わせるのはおよそ二週間ぶりだが彼は悪びれる様子もなく飄々としていた。仁王。そう呼ぶと彼は何じゃと返事をする。特別用はない。きっと彼も終電を逃したから止めて欲しいとかそれくらいの用件しかないのだろう。
部屋の電気をつけようと腕を伸ばせばつけんでいいと背中から声が飛んできたので渋々暗い中をそろりそろりと歩く。着替えるために隣の部屋に行こうとするがしかし暗いためになかなか前に進めない。まだ目が慣れてくれない。
やっとクローゼットのある部屋まで来た頃に目が慣れてきて適当に転がっていたパジャマに袖を通す。スーツを掛けてからリビングに戻れば彼はまだベッドの上に腰掛けてこちらを見ているようだった。

「いいよベッド使って。私床で寝る。」
「シャワーは浴びんでええのか。」
「あんたがいたらシャワー浴びられない。脱衣場そこだからここから見える。」
「残念じゃの。」

なーにが残念だ、と内心で舌打ちしながらタオルケットを引っ張り出して頭から被る。床に横になった体は思っていた以上に疲れていたらしく、途端に鉛のように重くなる感覚に襲われてはあと溜息が漏れた。仁王に背を向けておやすみを言うこともなく瞳を閉じる。まもなく背後でもぞもぞと動く仁王がおそらくベッドに入ったのだろう音がした。

「……まだ起きちょるか。」
「………」
「狸寝入りは俺には効かんぜよ。」
「うるさい。寝かせて…」
「嫌じゃ。」
「な、っ……!」

突然タオルケットが肌から離れてするりと床に落ち、私の体は相対的に床から離れて持ち上げられていた。ベッドに上げられた眼前には、私を押し倒してにやりと笑う仁王がいた。

「…なに、また女捨ててきたの。」
「今朝じゃな。素直ないい子じゃったが、物足りなくてな。」
「2週間か、まあまあ持った方じゃない。」
「でも結局お前とヤるのが一番具合が良くてな。体の相性が良すぎるとどうも病みつきになって困るの。」
「で、満足したらまた女の子探しに行くんだ。次はどんな子だろうね。」

皮肉たっぷりにこんなことを言っているがその間にも私の衣類は全て仁王に取り去られていく。こうして仁王が女を作っては捨てるのは昔から見てきたしその度に私のところに帰ってくるのはデフォルトだった。彼が言う通り、私たちは体の相性が格段に良いらしくなるほどそのへんの風俗に行くよりも私とヤったほうが満足するらしいから都合よく利用されている。かくいう私もまた適当に男を引っ掛けてはヤって一晩でサヨウナラなんてざらにあるし、現に今日も実はそうしてきたところだった。
仁王が下着に手をかけ、そこで手を止める。気付いたようだ。

「お前さんも遊び盛りじゃの。彼氏じゃないじゃろう。」
「うん。さっきナンパしてきた人とちょっと寝た。」
「知らん香水の匂いとタバコの臭いがしよるから怪しいとは思ったがやはりそうか。ショーツが濡れちょる。」
「ラクでしょ、その方が。」
「そうじゃの。」

十分に具合のよろしいそこに、仁王も自分のを当てがう。そして、ずるりと中に侵入してきたその感覚に腰が浮いた。今日二度目の行為とはいえ、仁王とするのはやはり私にとっても特別に気持ちが良くて意識せずとも彼に抱かれるのを悦んでしまう。縋るように伸ばした腕を絡め取られてすっかり気分を良くした彼の律動が速度を増し、更に深く繋がろうと腰を進めるから結合部からはぐちゅぐちゅと音が泡立った。
相当気持ちが良いのか見上げた仁王の表情は切なげに歪み、けれど目が合うと途端に余裕の笑みを浮かべて私を見下ろす。具合のいいことじゃの。彼の唇が微かに動いた。掠れた声で囁かれて意図せずとも疼きが強くなって擦られている内部がまた熱を帯びてしまう。擦り付ける動作は酷くわざとらしく、俺の所有物だと言わんばかりに何度も一番いいところを突いてくる。イきかけた意識がぼんやりともやを被ったところで体制が変わる。後背位になって、仁王が後ろから再び腰を打ち付けて来るのがわかった。

「今日も、ッ、えっろいカラダじゃの、っ」
「んっ、ふ、んんっ」
「お前の体だけは飽きん、のっ」
「にお、の、っ、えっち」
「お前さんも、じゃろ、?」

黙って抱かれんしゃい、とお尻を叩かれてひっと喉から声が漏れる。パンっ、パンっとリズミカルにぶつかる肌と肌にまた情欲を覚えて腰が揺れる。押し寄せる強い快感に背中が仰け反っては声にならない喘ぎが唇から漏れ出す。振り返って仁王を伺えば彼もまた目を閉じて快感を享受していた。じんわりと滲む汗、あっ、はっという仁王の仄かな息遣いは荒い。視線を下ろせば前後運動を続ける腰使いが快感を煽った。時折奥に当たるとそこに擦り付けるように仁王が私の腰を掴んで奥に奥にと擦り付けるから息が詰まって堪らない。間もなく絶頂するというところで、どうやら彼もそれは私氏の中の具合で察したらしく突然にまた動きが荒々しく早くなった。

「締め付けすぎじゃ、ッ、中で出すっ」
「うっ、あぁっ、いいよ、出し、て」

イく、イっちゃう。目の前がチカチカして、快感でふわふわしていた頭が突然がくんと重くなり、イってしまったのだと認識した時には私は前に倒れ込んで枕に顔を埋めていた。はあはあと荒く息をする彼の体温を背中に感じる。仁王は私の腕を掴んでいた。

「…やっぱり、気持ち良いの。お前との情事は。」
「…満足した?」
「ああ、十二分に。」
「そりゃどうも。」
「お前も善がってたくせに。」
「体の相性が良いのは認めてるからね。」

満足そうに耳元で笑う仁王は、その体をぴったりと私にくっつけて折り重なっていた。暑い。仁王の体も熱くて、2人ともこのまま溶けてしまいそうな程。繋がった部分からとろとろと出されたものが溢れ出る感覚がして、拭かなければとティッシュに腕を伸ばす。二、三枚掴んでそれを下腹部に持っていこうとしたけれど、仁王が邪魔をする。退けろと言えば嫌じゃの一点張りで、抜いてと言えばそれも出来ないと萎えかけているそれを中へと押し戻す。溢れた精液がもうシーツに染みてそこだけ冷たくなっていた。不快だ。
いつもならばシたらさっさとシャワーを浴びさせてくれるのが今日はなんだ、もう少しこのままがいいだなんて子どもじみたことしか言わないから不気味ですらある。何を考えている、このペテン師。

「仁王、せめて顔見せて。」
「体勢変えたら抜けるから嫌じゃ。」
「十二分に満足したんじゃないの?」
「体はな。心がお前さんのこと欲しとるんじゃ。」
「はいはいそれも嘘なんでしょう。我が儘言ってないで早く抜いて。私シャワー浴びたいしシーツ替えたい。」
「…まだなまえを抱き締めていたい。俺の居場所は、此処にしかない。」

方言ではない上に、お前ではなく名前で呼ばれたことにはっとして、というかどきっとして背筋がびくりと震える。首だけ振り向かせて彼の顔を伺うとそこにあったのはいつに無く真面目な、そして痛々しい仁王がいた。今朝女の子に振られたのがそんなに効いたのか。素直ないい子じゃった、……珍しく本命だったからと考えれば、なるほど合点が行く。

「珍しく振られたんでしょあんた。」
「よくお分かりで。」
「残念だったね、素直ないい子だったんだもんね。久しぶりの本命だったんだ。」
「俺も歳だしの。落ち着くところに落ち着くべきだとは思っとる。」
「歳って…まだ30超えてない身分で何言ってんの。男はまだ大丈夫でしょ。」
「そういうお前さんは賞味期限ぎりぎりってとこか。」
「二度とうち来なくていいわ。」
「冗談じゃ。…あ、」

ずるりと膣から何かが抜け落ちていく感覚に、不意にくぐもった声が出る。仁王は困ったように笑って抜けてしまったのう、と仕方なくティッシュを掴んで私の体やシーツを拭いてくれた。体を仰向けに転がせてやっと仁王と向き合った時、彼は何も言わず突然に私にキスをして強く抱きしめてきた。
仁王のこんな姿は、見たことがない。

「本題に入る。俺と、付き合って欲しい。」
「何を今更。…遂に私も捨てられるんだ。」
「別れる前提で話を進めるな。俺は本気で言ってる。」
「そうやって何人もの女の子に嘘をついて捨ててきたくせに。私に通用するとでも。」
「まあ、俺が今までやってきたことを知っとるけんのう。一筋縄で信じてもらえるとは思っとらん。だが、俺は本気だ。」
「賞味期限ぎりぎりの女を相手しても体の相性がいいってだけで何にもないよ。」
「俺にはお前さんが一番居心地が良い。…なまえ、まだ嘘だと思ってくれていい。行動でこれから示していく。」

俺なりの誠意じゃと、この時初めて仁王が私の首筋に赤い鬱血痕を残した。初めての痛みに顔をしかめるが、しかし嫌だとは思わなかった。かなり強く吸われたから相当濃く残っているらしく、顔を上げた仁王はふふっと笑ってこれまた随分とやらしいのうと呟いた。だったら付けるなと怒ったものの、彼は満足げに笑って私を撫でる。

「嘘だったら本気でここから追い出すから。」
「嘘じゃない。もう他の女全員切ったぜよ。」
「へー嘘っぽい。」
「だから、嘘じゃないて。…お風呂、一緒に入るか。」
「いっつも別々に入ってるじゃん。うちのお風呂広くないよ。」
「それがええんじゃ、くっついていられる。」

いくぞ、と持ち上げられてあっという間に運ばれる。これが最初で最後のチャンスだからねと念を押すと彼は笑ってそれでいいと言った。電気をつけた浴室の中、お互いの裸体がはっきりと見えるから恥ずかしくて目を瞑る。いつも暗い中でしか抱き合っていないから彼のを光の下で見たことなどなかった。何度も重ねている体をいざ見るのはとてもじゃないけど、恥ずかしくて無理だ。
下ろされてすぐ椅子に座った仁王の膝の上に向かい合わせで座らされる。啄むようなキスを繰り返され、その間に腰を掴まれる。目を開けると仁王と視線がかち合う。目を開けたまま彼は私とキスをしていたのだと気づいて、途端にまた恥ずかしくなる。

「腰、上げて」
「えっ、…あっ、ちょっ」
「ん、この方がいい。」

下が、繋がっている。そのまま再びキスすると、仁王のが中でまた少しだけ膨らんだ。

「お前のことは、幸せにするけんの。」
「な、なによ急に。」
「ん、愛の誓いじゃ。」
「嘘だ。」
「そう思っとってもええ。信用されないのも悲しいもんじゃの。」
「せいぜい信用されるように頑張って下さ、ッ、ああ、っ!」

言い終えぬうちに下から突き上げられて目を剥いてしまいそうになり、咄嗟に目を瞑って堪える。仁王が喉で笑った。

「もう詐欺師にもピエロにもならんぜよ、覚悟しときんしゃいなまえ。」










(仁王×仁王っぽい女の子なイメージのはずが段々普通にえっちくて甘い感じになってて着地点もみつからなくて一人でわたわたしながら書いてました勝手に話進めちゃう仁王しゃん恐ろしい子(;▽;) 物語の中の子達が勝手に動いちゃうというたまにある不思議な現象のままに書き連ねました。えっちいのむずかしい!)










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