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□U
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私が蓮二、と名前で呼ぶことを強制されるようになったのはきっと、彼があの子に振られてからだったと思う。ひと目でわかるほどに蓮二は傷ついていた。自暴自棄になりそうだ、と直感した故に蓮二の側を離れなくなったのは私の方だった。それがいつの間にか蓮二のほうが私を求めるようになった。
最初はそれが嬉しかった。やっと彼に必要とされるようになったと思えた。蓮二は私を名前で呼ぶようになってからもっと親しくなれたし、連絡を取ることも多くなった。蓮二の試合を見に行くこともあれば二人で学校の行き帰りを共にすることもあり、気づいた時には先生方すら私たちが付き合っていると信じて止まなかった。私はすっかり浮かれていた。蓮二の隣を自分のものにできたと、驕ってすらいた。

それでも頭の中では彼がまだ別の人を想っていることは重々承知だった。私を見てくれる事は決してないのだと、どこかで予防線を張っていた。どんなに一緒にいても、彼と分かり合える日は来ないしこれ以上期待しても意味が無いことも。蓮二が私に自分自身を重ねていることも、なんとなく分かっていた。

「真田。私、高校は外部を受験しようと思うの。」

一緒にいればいるほど、蓮二を苦しめるのは自明だった。ならいっそ私から離れてしまおう。幸い、外部にも偏差値が同じくらいのいい学校はあるし通学にも支障はないくらいの距離だった。
隣の席の真田に進路希望書をひらひらさせながらそう言うと、彼はばっと顔を上げて私を見つめた。普段仏頂面の彼の、珍しい驚愕の色を浮かべた表情にくすくすと笑えば真田は私をきっと睨みつけた。

「蓮二が許さんぞ。」
「いやいや、むしろその方が清々すると思うの。」
「蓮二はお前を失うのは嫌だと常常言っているぞ。あいつはお前を必要としている。そう言ってやるな。」
「優しいだけでしょ。蓮二だって私と付き合ってるなんて噂されて迷惑だと思うし。」
「あいつは噂の一つで靡くような男ではない。考え直せ、蓮二を悲しませてやるな。」

そう言って彼は自分の進路希望書に向き直る。立海大付属高校、という文字が大きく書かれたその紙がほんの少しだけ憎らしい。本当は、私だって。

「蓮二は……」
「ん?」
「蓮二はお前を疎んだりはしない。何も考える必要は無い、お前は蓮二と共にいろ。」

真田は、すべて分かってる。蓮二が失恋してから半ば自暴自棄になったことも、私がどんな気持ちでいるかも、きっと蓮二の気持ちも。その上で私の背中を押してくれているのだ。
希望用紙に同じく立海大付属高校と書けば、彼はうむと頷く。やはり蓮二に必要とされる、という言葉に私は弱い。我ながら単純で、馬鹿馬鹿しい。蓮二を諦めてしまいたいのに、そうさせてもらえないのだ。自分にも、周りにも。それは蓮二が蓮二であるために私が必要とされているからで。そこに私の気持ちなんてないのだ。真田も、幸村も、蓮二自身も、きっとみんな蓮二が蓮二でなくなることが怖いんだ。だから私を利用する。私を蓮二のそばに置く。それに甘んじる私も、私の気持ちを利用しているのだ。



蓮二が好き。でも、憎い。






(Uで終わらないから次でやっと完結しそう。ノンフィクションをノンフィクションのまま書くとひたすら暗い……)





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