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□充電
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職員室から拝借したマグには熱々のカフェオレが注がれていた。生徒大会に提出する議題書の作成が一段落したところでマグに手を伸ばし、ちょっとずつ中の甘くて苦くてぽかぽかするそれを口に含む。ぱたん、と軽い音がたった2人しかいない生徒会室に響いた。

「少し休んだらどうだ。」
「ありがと。…でも、あと少しなの。」

まだ熱くて簡単には飲めないそれをことんとデスクに乗せる。にゅっと伸びてきた背の高い影はやがて私の手首を掴み、そして後ろを振り向かせた。

「休めと言っている。」
「大丈夫だから。」
「適度な休憩は作業効率を上げる。…今のではまだ足りていないぞ。」

そういう柳も放課後すぐここに来て会計決算書とにらめっこ状態が続いていた。自分こそ、と言い返せば柳は私の隣の椅子に腰掛けてデスクトップを覗き込む。さらり、と整った前髪が揺れた。

「脱字ばっかりだな。」
「え、…わ、ほんとだ。」
「集中力が低下している。やはり休息が必要だ。」

そう言って彼は私をデスクから引き剥がすように、椅子の背もたれを掴んでぐっと私の椅子を引いた。キャスターがからからと音を立てて転がる。柳も一緒になってデスクから離れ、私たちは二人並んで窓のところまでずるずる下がっていった。

「やっと口を聞いてくれた。」
「仕事中だもん、仕方ない。」
「せっかくたまの彼女とのふたりきりの時間だ、休憩中くらいいいだろう。俺だって構って欲しい時はある。」
「いつも構って欲しいんでしょ蓮二は。」

呼び方が蓮二に変わった途端、彼は嬉しそうに微笑んだ。結局私もこの顔に弱い。蓮二が頬をぴったりと寄せて、すりすりとくっつけてくるからくすぐったくて恥ずかしくて。離れようとしたら方をがっしりと抱かれてさらに密着する。逃げるな、と拗ねた蓮二が頬に唇を寄せるからもうすっかりデレデレモードである。肩を抱いていた手が急に脇まで降りてきたかと思えば立ち上がれというふうに持ち上げられる。そしてそのまま蓮二の前に移動させられ、私はあっという間に彼の膝の上に座らされた。

「ここ生徒会室だよ。」
「鍵はかけた。抜かりはない。」
「権力濫用だ。」

肩に顔を埋めてやはり嬉しそうにしている蓮二。後ろから抱きすくめられて手まで握られてすっかり蓮二のお人形さん状態だ。でもこれもいつものこと。蓮二が構って欲しくて我慢してた時、こうして充電する。

マグからはまだ湯気が立ち上っている。もう少し冷めるまでは蓮二にこうされるのも悪くない。大人しくされるがままになって、そうして蓮二がいつものようにキスをしたいとせがむのを待っていよう。それまでは、このまま。






End.
(うちの地域だけかも知れないけど生徒会室には奥または隣に廊下からは直接は入れない隠し部屋というか物置みたいなお部屋があるんです。ということは多分その後その部屋で蓮二さんがあれこれしちゃうんだろうねっていう余計な燃料を投下して、さらば。)




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