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□&more sweets
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月に一度のブン太との甘いもの会、今月は今話題の地元の新たなランドマークとなりつつある女性向けファッションビルの中にあるスイーツバイキングに遂に乗り込むことになった。この日のために先週からちょっとずつだけど運動もしたし昨日の晩ご飯は抜いたし袈裟はフルーツしか食べていない。つまり!私の食べ放題コンディションは最高なわけだ。当のブン太も部活が終わったら着替えてすぐに走ってくるらしいから疲れた体にスイーツが染み渡るのは間違いない。食べ終わったら苦しいお腹を少しでも落とすためにこのビルの中のアクセサリーショップで私は自分用の、ブン太は今度誕生日を迎えるお母さんへのプレゼントを探すつもりだ。夕方にはここを出て最後にカラオケにでも行こうという計画だった。

…だったんだ。

「待たせたな、みょうじ。」
「………ほ?」


名前を呼ばれたので振り返ったらそこにいたのはブン太ではなくて、もっと背の高くてとってもスマートな男の人で、えっと、この人は、まさか。


「や、柳くんン!?」
「…丸井から何の連絡も聞いていないのか?」

素っ頓狂に声が裏返ってしまって思わず口を塞ぐ。こくこくと頷けば目の前の私の片思い相手はそうか、と顎に手を置いた。そうか、じゃないよ!ブン太コラァ!何してんの!塞いだ口からブン太あああああああと叫び声が上がりそうになる。

「ど、どういうことなの柳くん……」
「今日の練習で丸井が少し熱中症になってしまってな。保健室に運んでいる最中にお前との約束があると言っていたのだがどうにも動ける体ではなかったから、代わりに俺が来たというわけだ。」
「えっ、あのブン太が。」
「立ち話もなんだろう。店に入ってから話さないか。」

柳くんに促され、それもそうだねとビルに向き直る。女の人ばっかりが入って行く中に背の高い柳くんが入るとそれはもう目立つし彼はとってもかっこいいから周りの女の人たちがみんな振り返る。OLみたいな大人の女の人から私たちくらいの学生までいろんな年齢層の女の人がいるけれど、誰しもが柳くんを見てはかっこいいとか素敵な彼氏さんだとか口々に彼を褒めちぎる。ああ、柳くんが私の本当の彼氏ならいいのになあとぼんやりその横顔を見つめていたら、視線に気付かれて彼が私へと視線を移した。

「…ほとんど女性しかいないな。」
「う、うん。ここコスメショップとかブランドのお店とか全部女の人向けのお店しかないから…」
「少し…目立ち過ぎていないか。」

苦笑する柳くん。その表情にすら私はときめいてしまうけれど確に目立ちすぎている感はある。折角の初デートで彼に気まずい思いをさせてしまっているなんて私もうだめだ!いくらお店予約してると言ったってこれじゃだめだ!

「や、柳くん落ち着かない、よね。お店、変えよっか…?」
「その必要は無い。スイーツバイキング、たのしみにしてきたのだろう?予約までして。」
「で、でも」

言いかけたところに私の唇に彼の人差し指が添えられる。立ち止まった柳くんは腰を屈めて私と同じ目線になると、いつも伏せている目を薄く開けて瞳の奥で微笑んで見せた。

「お前がどんな幸せそうな顔でスイーツを食するかをデータに取らせて欲しい。…いいかな。」

わあ、と真後ろの女子高生が声を上げる。これじゃまるで本当に付き合っているカップルじゃないか。ほっぺたから湯気が出そうなくらい顔が熱く火照り始めて息まで苦しくなってきた。当の柳くんは涼しい顔をして、勝手に私の手をとって歩いていく。あ、手繋いでる。もはや混乱してるのか興奮してるのかわからないくらい脈がドクドクと大きく早くなってしまって、柳くんの大きな手に導かれるままにお店に着いてしまった。

「予約していたみょうじです。」

カウンターで柳くんが私の苗字を告げる。それにすらうわああああと魂が抜けたような声を発してしまいそうになって、繋いでいない方の手を慌てて口に当てて声を抑えた。店員さんも男の客が珍しいのかちょっとびっくりしていて、でも予約していたから真横の長ーい列をすっ飛ばしてすぐに入店する。レジを抜けた先には色とりどりのケーキやパンケーキやクッキーが並んでいて、さすがに感動してすこしだけ緊張が和らいだ。すごい!モンブランもバウムクーヘンもある!クレームブリュレも!わースイーツ天国だ!

「ねえ柳くん!焼きたてワッフルがある!ソース自由に選べるんだって!うわあ!あっちはクロワッサンだよ、パスタもあるよ!」

お皿を手にキャッキャとはしゃぐ私は早速サラダにパンにチキンにと次々お更に盛り付けていく。あーグラタンも美味しそう、取っちゃえ。
後ろで柳くんもお皿に盛り付けているけれどその様子は淡々としていてなんだかはしゃいでたのが急に恥ずかしくなってくる。下に野菜を盛って上にゴロゴロと肉やら何やらを載せていた私がなんだか食いしん坊というか卑しいというか。がっつきすぎて引かれてるんじゃないかと不安になり、パスタを盛り付けようと持ったトングをカチャンと置いた。

「もういいのか。皿にまだ空きがあるが。」
「あ、いや…」
「…ブン太の前でも緊張しないが、俺といると緊張する、か。」
「う………」

足早にドリンクバーに逃げ込めば柳くんも後ろをついてくる。柳くんこそまだお皿すっかすかじゃない。
オレンジジュースを注ぎながら、先程握られた左手をじっと見つめる。そうださっき手繋がれたんだっけ…


「や、柳くんが急に手を繋いだりするから…」
「そうだな。わざとやった。」
「ひ、ひどい!私がどれだけドキドキしたと思ってるの!」
「ならばその言葉、そっくりそのまま返そう。待ち合わせ場所に立っていた私服のお前を一目見た時、俺がどれだけどきりとしたかお前は知らないだろうな。」

注いだオレンジジュースのコップを柳くんが持ち上げる。そのままテーブルへと足を向けたから今度は私が彼のあとをついていく。えっ、つまりどういうこと?と訪ねたけれど、彼は何も言わないし後ろ姿だからその表情は読み取れない。

「大事な話は後にしよう。今食べ始めなければ制限時間内にお前が一番食べたいと思っている焼きたてワッフルをありつける可能性が低くなる。」
「えっ、それはやだ!」
「それから、いつかのCMでいっぱい食べる君が好き、という歌があったが…俺はその歌の通りだと思っている。」

グリルチキンをサニーレタスに巻いてぱくりと口に運ぶ。柳くんの言葉に顔を上げれば、彼はにこりと笑いながら頬杖をついて私を見ていた。

「ほら、そうやって美味しそうに食べている時のお前の顔は…可愛い。」

もっとお食べ、というように柳くんがお皿に乗っけていたムール貝のブイヨンスープ煮込みを一つ分けてくれる。言いくるめられたみたいでなんとも負けた気分だけれど、促されるままに結局私はがっついてしまった。
1皿目を食べ終わってすぐ今度はピザやさっき取り損ねたパスタ、あと美味しかったからもう一度グラタンを盛り、さらにパンケーキのお皿を1枚持ってテーブルに戻る。その次は人さらにドーンとスイーツだけ乗せてきた。それでも柳くんはドン引きすることもなく美味しい美味しいと食べ続ける私をじっと見つめては目が合うとにこりと笑う。吹っ切れたのかもう最初のような恥ずかしさはなくなっていた。女の子としてどうなんだろう、と再度ううむと思い悩めば目の前の柳くんはまたもっとお食べというように持ってきたカスタードシューや白玉の入った小さなぜんざいをすっと差し出すからそれに甘えてまた口を動かしてしまう。おいしい。そのうえ目の前には微笑む片想い相手。極上の幸せだ。もうこの際だから夢だと思って楽しんだ方がいいかもしれない。

「これは夢でもないし俺はお前の片思い相手ではなく両思い相手だ。」
「んぐっ!」
「さっきから心の声がダダ漏れだ。」

喉詰まるぞ、と烏龍茶を差し出されてまた甘えてしまう。白玉を危うく喉につまらせるところだったからありがたくそれを頂戴した。

「ねえねえさっきからからかってるの?」
「からかってなどいないさ。」
「嘘だ、いっつもブン太が教えてくれる柳くんってもっと口数少なくて仏頂面で女の子に興味無さそうな人だもん。」

勿論今の私に向けてくれる笑顔は素敵だけど、と付け加えながらお楽しみのモンブランにフォークを突き立てる。濃厚なマロンペーストが、くどすぎずしかし上質な甘みで舌を包み込んだ。
柳くんはふっと笑ってそんな私の幸せそうな顔を眺めている。

「部活中の俺と好きな相手を前にした俺とでは態度が違うというだけだ。こんな俺は嫌か?」
「そんなことはない、けど…」
「なら不都合はない。みょうじは俺が好きで俺もお前のことが好き。尚且俺はお前を自分のモノにしてしまいたいと思っているし、なんならこういうこともしたい。」

そう言うと柳くんは自分のフォークを手にするなり私のお皿に乗っているショートケーキを刺して持ち上げる。にゅっと伸びた腕が私の方へと向かっていて、はっとした時にはショートケーキは私の口元へと運ばれていた。

「あーん。」
「え、え、え」
「ほら、他の人も見ているだろう。早くあーんしろ。」
「えっ、あ、あーん……」

ぱくり。呆気なくショートケーキは私のお口に運ばれてふわっふわのスポンジと生クリームのハーモニーに途端に酔いしれてもうあーんした恥ずかしさなんてどこへやら。ほっぺたを抑えて美味しいー!と叫びだしたくなる。

「彼女が目の前でこんなに美味しそうにスイーツを頬張る光景が、こんなにも可愛らしいものだとはな。」
「わっ、私まだOKのお返事なんてしてない!」
「そうか。順序をしっかり踏みたいというならば、お前に合わせよう。」

珈琲を取ってくる、と席を立った柳くんの背中を見送る。冷静になれ私。あの柳くんが私を好きだと言ってくれてしかももう手まで繋いでさっきから好き好きオーラ全開で私を口説きにかかっているし、なんなら私が彼を好きなことはバレている。恥ずかしすぎる。でもこれって喜ぶべきことだしなんならブン太GJ!って感じだし。でもこんなにグイグイこられたらどう反応していいんだ。柳くんってもっとプラトニックというか手順きっちり踏むと思ってたしこんなに感情表現ストレートだなんて思ってなかったし!

「百面相しているところ悪いが今のもダダ漏れだぞ。」
「ひっ!?」
「顔にすべて書いてある。…お前は黙って俺に身を任せていればいい。それともそんなに俺がお前を好きなのを信用出来ないか?」

ブラックコーヒーを砂糖も入れずにすっと口にする柳くんは、なおも私に微笑みかけている。世間でいうデレデレっていうタイプなのかな彼。
しかし彼の言葉はまさに私の思考通りだった。こんなにモテていて今まで接点なんてなかった彼がなんで私のことを好きになるのか理解ができなかった。

「ブン太から大体の話は聞いていたしいつも廊下ですれ違う時にお前を可愛いなと思って見ていた。俺に好意があると知ってもっとお前を知りたくなった。…これだけじゃ駄目か?」
「う………」

私がどれだけ疑っても結局彼はどんな問にも答えを返してくるしそもそも惚れた弱みというか私の方が折れるしかなさそうだ。柳くんの中では私はもう彼女扱いになっていて、できることならちゃんと告白したかったけれどもうそんなのすっ飛ばして彼は私を一刻も早く自分のモノにしたい、ということなんだ。

「…参りました。」
「ふっ、折れたか。」
「だって柳くん告白より前に手繋ぐし彼女扱いするし今更順番がどうとか言えないでしょ。」
「まあな。」

ブラックコーヒーを飲み干した彼は悪びれることなくにこりと笑う。学校での彼はあんなにも大人なのに、と思ったところで考えるのをやめた。どうせ何を考えていてもこの頭のよろしい柳くんは私の思考を読んでしまうのだから。

「なまえ」
「っ!?はい!?」
「こんなに可愛い彼女だと、一緒に歩いていてもほかの男の視線が気になって仕方ないな。」
「…柳くん学校と違いすぎて私ついていけない」
「お前が好きになった男はこういう男なんだ。外では確かに厳格な優等生かもしれないが、本性は彼女に甘いただの男だ。」

席の残り時間を示すタイマーがいよいよ残り15分を示している。二人揃って最後のデザートを取りに立ち上がるなり、ぐっと腕を引かれ、そして瞬間的に彼の舌先が私の頬をかすめた。何が起こったか分からず立ち尽くす私に柳くんは得意げに笑って見せる。

「クリーム、ここについていたぞ。」

ほっぺたを人差し指でぷに、とつつかれて、やっと状況を理解した私は本日やっと彼の前で恥ずかしげもなくうわああああああと間の抜けた叫び声を上げてしまったのである。





「なまえ、好きだ。」
「な、なんで今それ言うのっ」






End.

(モアプリとかドキサバの柳の主人公大好き大好き感は異常だと思ってたけど末っ子だしむしろあれが本性なのかなって最近は思ってます)



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