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□不純物と砂糖菓子
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達人、参謀、教授。

俺の呼び名は多々あるが、そのどれもが今の俺には似合わないと笑われた。それもそうだ。元々末っ子で、幼い頃は女の子同然に育てられてきたがためにいつの間にか甘えっ子気質が見に染み付いていた。今でこそ部活動で鍛えられた自制心で甘えることを抑え、女子同様に長かった髪を切ることで男として異性から恋愛対象に見られる事も増えてきたが、東京にいた頃は女の子に間違われたことは多かった。故に、可愛い可愛いと言われて育ち、甘えればより甘やかされることを覚えた俺は人一倍計算して甘えるのが得意になったというわけだ。そして、その経験を今では貴重なものであったと心から言える。

「なまえ、少しだけ添い寝をしてくれないか。」

首元に顔を埋めてすりすりと頬をくっつける。なまえの手が俺の頭に触れ、ゆっくりと撫でてくれるのが嬉しくて無防備な白い頬に唇で撫で返した。くすぐったいよ、とくすくす笑ってなまえの小さな手が俺の頭から肩へと回された。

「蓮二、疲れてるよね。ごめんねわざわざオフの日に呼んじゃって。」
「そんなことはない。俺はなまえといる時の方がよっぽどリラックスできるというものだ。それで…」

添い寝は、ともう一度尋ねる。わざと首をちょこんと傾げて見せれば、途端に真っ赤になりつつも嬉しそうに口元を緩ませてなまえは頷いた。「いいよ、ちょっとお昼寝しようか。」と、簡単に男をベッドへ入れてしまうこの子はなんと純粋なことか。いや、俺が計算ばかりして甘えるような不純な男であるというだけかもしれないが。それでもここまでは計算通り。計画はほとんど成功している。
それでも眠い演技を続けるためにあくびを一つ、そして目を擦りながら捲られたタオルケットに身を滑りこませる。暖かくて、仄かに柔軟剤の優しい香りとなまえの匂いがした。清潔感のある石鹸の香り。タオルケットから目元だけ覗かせるなまえの目がじっと俺を捉えていた。

「蓮二、好き。」
「…俺もだ。」

確かめるように口付ける。ちゅ、とリップ音を立ててみればなまえの頬が真っ赤に染まる。あまりに可愛い反応だ、この状況じゃ俺の理性が持つのも時間の問題か。
完全に油断しているなまえの頬に、額に、唇にキスを落とす。そして最後にタオルケットをずらし、喉元にもキスを降らせた。

「さてなまえ、キスは部位ごとに意味を持つのを知っているか。」
「ううん、知らない。」
「では、喉にするキスの意味も知らないようだな。」

こくん、と彼女が頷く。やはり知らなかったか、それならば都合がいい。甘えっ子の振りを止め、上体を起こしてなまえに覆い被さる。再度喉に口付けてから耳元を狙う。

「…欲情、という意味だ。」

男を意識させるために低い声で囁いた途端、甘えっ子の時間が終わったのだと自覚したなまえの身体が強ばる。蓮二、と呼ぶなまえの声が僅かに震えた。

「せっかくのオフの日にこそお前を堪能したいというものだ。」
「だ、だってまだ本番、したことないし、それに」
「俺に欲がないと思ったか。残念ながらそれは読み誤っている。お前の前では俺もただの男に過ぎん。

それと、だ。
欲がないとお前は勘違いしていたようだが…この柳蓮二、相手がなまえとなればただの雄に成り下がる。3強と呼ばれた俺との営みはお前には酷かもしれないが……付き合ってもらうぞ。」

あまりにも可愛い反応をされては既に熱を持った自身が滾って仕方ない。罪な女だ、とつくづく思う。無防備に俺を誘い込み、欲情させ、無垢な反応で俺を煽る…我慢しろという方が無理な問題だ。
ブラウスのボタンをひとつひとつ外す度に目を泳がせるなまえは先程まで俺を可愛がって甘やかしていたそれとは異なって余裕がなさそうに目を閉じている。それもまた愛おしい。

さて、飛んだはったりをかましてしまったがはったりで終わらせるつもりは無い。体力のある俺になまえはどこまでついてこられるだろうか、はたまた途中で壊れてしまうだろうか。…いや、こんなにも可愛い彼女が俺の手で壊れていく様すら見届けたくなる。俺の好奇心のなんと加虐的なことだろう。先程まで優位に立っていた者を組敷くのもなかなか良い。実に気持ちがいい。自然と笑みが零れてしまうほどに。

「甘えん坊の、蓮二、じゃ、ないっ、ああっ」
「甘えん坊の俺の方が好きか?」
「……どっちも好き。っ!あっああっあんっ!」
「なら今は大人しく抱かれろ。」

鎖骨をカリッと噛むと、高い声を上げて悦ぶなまえにますますそそられる。今日はしばらくこのまま離せそうにないな。まあ、離すつもりは毛頭ないが。せっかく初めて体を重ねるのだからじっくりとこの体を味わい尽くしてやろう。



End.





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