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□無垢な誘惑者
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日々鍛錬を怠らない自分の肉体が、今は下半身を中心に倦怠感と披露に襲われて悲鳴を上げている気がしてならない。足腰の運動量をこれからは増やさねばならぬ。朝のジョギングコースを伸ばす必要がある。そうでなければ彼女を満足させられなくなるどころか、俺の方が音を上げてしまうだろう。昨晩の熱い情事が脳を過ぎり、己を律するために頬を叩いた。ならぬ。生理現象とはいえ、すやすやと小さく寝息を立てている彼女を無理矢理に起こして抱くのは自分の理性が許さない。
乱れた前髪、一矢纏わぬ白い肌、小さな手、女性特有の曲線美…カーテンの隙間から漏れる光にぼんやりと照らされて、美しくも淫らに映し出された彼女になおも目を奪われているのも事実であり、何度目を背けようともその美しさにまた振り向いてしまう。それは夜の薄暗い部屋にいても同様で、ぼんやりとついたライトが照らし出した彼女の裸体は美しく妖艶で、貪るように何度も何度も腰を打ち付けた。美しさ故に、汚してしまいたくなった。縋るように背中に回された腕、初めて掴んだ腰は細く、口づけを交わす度に甘い息が漏れた。
女を抱いたのはこれが初めてだった。嫌悪さえ抱いていた交わり…しかし今にして思えば愛する者と再奥で繋がれる喜びを、愉悦を俺は知ってしまった。後には戻れない気さえする。いや、もう戻りたくない。もっと抱いてやりたい、彼女を満足させたい。この女は俺をどうしようもない雄へと成り下げてしまうのだから恐ろしいものだ。己を厳格に律してきた自分ですら、だ。

「弦一郎さん………?」

掠れた声で、彼女の唇が俺を呼ぶ。応えるように頬を撫でると、その手に自分の小さな手を重ねてきた。

「起こしてしまったか、すまない。」
「ん…っと、平気、です。」

目をごしごしと擦り、まだ覚醒しきっていない表情はあどけない少女を連想させた。焦点の合ってない目は、それでも俺を捉えて離さない。彼女はそうして微笑んだ。

「弦一郎さんの体、綺麗。」
「何を言うか。お前の方がよっぽど…」

言いかけて、口をつぐんだ。この後に及んでではあるが、どうにも恥ずかしくなってしまう。目の前の彼女は優しく微笑んだまま頷き、そして俺の名を呼んだ。

「余計な肉がついてなくて、筋肉のつき方もとても綺麗だから。…ふふ、見惚れてしまいます。」
「伊達に朝の鍛錬を長年積み重ねてきたわけではないからな。だが、それを綺麗だと言われたのは初めてだ。」
「初めてじゃなきゃ困ります。」

そう言って彼女はシーツを口元まで持ってくるとくすくすと笑い始めた。可憐な少女のような笑顔、その裏にある艶やかな喘ぎ声がちらちらと脳裏を掠めるものだから、生理現象と相まって股間には熱が集まり始めていた。ならぬ、ならぬと言っておろう弦一郎。

「…なまえ、そろそろ服を着ろ。」

苦し紛れにそう告げれば、彼女はにっこりと笑って首を横に振った。嫌です、俺の言葉は珍しくきっぱりと否定された。

「だって弦一郎さん、まだ欲しがってるでしょう。放っておけません。」
「な…」
「先程から目が泳いでますから、すぐ分かりました。」

まだ欲しいんでしょう?と首を傾げて体をすり寄せられて、更に下半身が熱を帯びるのがわかる。昂った自身に血液が廻ってどくどくと波打っては理性の箍を外そうと暑いものが暴れ始める。まさに侵略すること火の如し、か。我ながら己の欲を制することが出来ぬとはなんと哀れなことか。

脱ぎかけたシーツの中にもう一度体を入れ、求められるままに小さな体に腕を回す。やはり俺もただの男に過ぎないのだと苦笑しながら柔らかな肌に触れてはどうしようもなく滾ってしまった欲望を正直に彼女にぶつけることにした。





End.

(アトガキ 真田の始めては若妻とかだと萌えませんか…って話です)


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